第6話 七年遅れで旅立ちます!
「メイさん、いつもありがとうございます」
最後のゴールデンリザード狩りを、村のお姉さんに報告。
三人の子供たちにも笑顔で手を振る。
「みんな、またねー!」
メイはこの日ついに、村を出ることにした。
川に沿って密林を下ること二時間。たどり着いたのは、小さな港。
先日探検に来た女性プレイヤーが言うには、彼女がこの島を発見したことで船便の就航先として新たに建てられたらしい。
今後は他のプレイヤーたちも乗り込んで来るのではないかとの事だった。
「海だーっ!」
やって来た小型の帆船に乗り込んで、メイはまばゆい大海を行く。
7年を過ごしたジャングルを飛び出して、目指すは大きな港街。
「ワクワクするなぁ。これぞ冒険だよ!」
真っ白な船の隣を、飛び跳ねながら並走する魚たち。
メイは船の先端に立ち、まだ見ぬ世界に期待をふくらませる。
こうして野生の最強戦士は無事、街へと送り出されたのだった。
◆
「すごい……プレイヤーってこんなにいるんだぁ」
たどり着いたのは、南洋にある大きな港町ラフテリア。
世界各地に向かう中継点の一つでもあるこの街は、たくさんの人で賑わっている。
白い石畳の大通りには商店が林立し、露店を開く商人プレイヤーたちも様々なアイテムを並べている。
それを見ながら歩くだけでも面白い。
「わー! あれはなんだろう! こっちはなに!?」
未開の地から出てきたばかりのメイは、せわしなく右へ左へ。
カッコいい鎧に目を輝かせ、可愛いアクセサリーに心を躍らせていると――。
『――――これより恒例イベント、バトルロワイアルを開始します』
そんなアナウンスが聞こえて来た。
『参加希望の方は、港湾部の指定範囲にてお待ちください。皆様のご参加をお待ちしています』
「イベントかぁ! こういうのって強いプレイヤーがたくさん出るんだろうけど……せっかくだもんね、参加してみよう!」
メイは船と倉庫の並ぶ、港湾部に向かう。
集まって来たのは、見るからに強そうな武器や防具で身を固めたプレイヤーたち。
その中に、ボロボロの初期装備でワクワクしている少女が一人。
にこにこしながら開始を待つメイを見て、重装備の戦士と二刀流の剣士が首を傾げる。
「……初期装備?」
「なんであんなボロボロなんだ……遭難でもしてたんか?」
それはあながち、間違いでもない。
「参加するイベントを間違えた感じかねぇ。ここは割と強いプレイヤーしかいないのに」
「初心者は最初に狩られるカモでしかないからな……」
気の毒に……みたいな感じで苦笑いをする二人。
そんなことはつゆ知らず、メイはイベントの開始を待つ。
アナウンスによれば、ルールはシンプルな戦闘勝負。
撃破数や与ダメージ、いかに見せ場を作ったか等がポイントとなって順位が決まるらしい。
またその順位によって、アイテムやスキルブックなどの賞品がもらえるとのこと。
『――――それではイベントを開始します。バトルロワイアル……スタート!』
「ウオオオオオオオオオオ――――ッ!!」
「おーっ!」
参加者たちの咆哮に、一緒に拳を振り上げるメイ。
人生初参加のイベントが、今始まった。
「来る場所を間違えたなぁ! もらったああああっ!」
さっそく初期装備のメイを狙いに来た、盗賊風の男。
見るからに豪華な短剣を突き出してくる。
「よっと」
勝負は一瞬。
軽やかなステップで攻撃をかわし、お返しの切り上げで一発勝利。
「……えっ?」
状況を飲み込めないまま、盗賊男は粒子になって消えていく。
「今だああああーっ!! 【フルスイング】!!」
直後に飛び掛かって来た戦士が放つのは、戦斧による強烈な横なぎ。
「うわっと」
これを垂直ジャンプ一つでかわすと、着地と同時に突きを放つ。
「……は?」
同じく、わずか一撃で粒子に変えられる。
二連勝。そんなメイを遠く影から狙うのは、一人の弓術師。
「【ソニックアロー】!」
猛烈な速度で、純白の矢が迫り来る。
「っ!」
これをメイは首の動き一つで回避した。さらに。
「やったなー! 【投石】!」
「ぐっはあっ!」
お返しとばかりに投げ返した石が、弓術師を弾き飛ばす。
「おいなんだ今の!? 100メートル近くあったぞ!?」
「あの距離から矢が見えて、しかも【投石】が届くって何事だよ!?」
ついに、その異常性に気づく者が出始めた。
メイのスキル【遠視】は、遠く離れた人物の挙動を視認し――。
「……【ファイアアロー】」
【聴覚向上】は、つぶやき声すら聞き逃さない。
「【バンビステップ】!」
かすかに聞こえた声に、メイは右左右と大きくしなやかな後方へのステップで炎弾をかわす。
燃え上がる炎。
「やあああっ!」
直後、それを割るようにして飛びかかって来たメイが魔術師を斬り伏せた。
「今、魔法が発動する直前にもう回避を始めてなかったか!?」
いよいよ、参加者たちが慌て出す。
「……いろんなスキルがあるんだなぁ」
一方メイは、初めて見るプレイヤースキルの数々に感動していた。
「わたしも負けてられないね!」
そう意気込むと、新たに突撃してきたプレイヤーたちを――。
「【ソードバッシュ】!」
「おいおい基礎スキルかよ! これだから初心者はぼげらあばらば――――っ!!」
レベル5になれば誰もが覚えるスキルで、十五人ほどまとめて吹き飛ばした。
「な、何だこの威力!?」
「【ソードバッシュ】が範囲攻撃化するって、攻撃力どうなってんだよ!?」
「でもあれ、ショートソードだぞ……?」
慌てふためく参加者たちを、メイは次々に吹き飛ばして行く。
腕力のステータスに依存する基礎スキル【ソードバッシュ】の威力は、もはや爆弾級だ。
「【ソードバッシュ】! からの……【ソードバッシュ】!」
怒涛の連続攻撃に、次々と脱落していく参加者たち。
「そして必殺の――――っ!!」
メイは手にしたショートソードを掲げる。
「ひ、必殺の――!?」
「【ソードバッシュ】!」
「【ソードバッシュ】かぁぁぁぁい!!」
そんな断末魔を残して消し飛んだ剣士の青年たちが、海に落下して派手な水しぶきをあげた。
超大型新人の登場に、ついに参加者たちがうろたえ出す。
見た目は初心者、レベルは最強。
メイの快進撃はまだまだ終わらない。
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