第5話 新たな決意
「うう……ううう」
『星屑のフロンティア』から帰って来たさつきは、そのままベッドに倒れ込んだ。
「うわああああああーっ!」
うつ伏せになって、足をバタバタさせる。
「わたしの7年間が……ト、トカゲ狩りに……っ」
雨の日も風の日も、嵐の日も。
大トカゲを追い続けた青春の日々が、脳裏を駆けめぐる。
「テスト期間に年表を口ずさみながら戦ったのも、修学旅行に持ち込んで夜中こっそりプレイしたのも、家族旅行の海でしたヘッドギア焼けも、全部ただのレベル上げでしかなかったなんてー!」
枕に顔をうずめて、ごろんごろん。
「お母さんに言われた通りだよ……」
母やよいに言われた「抜けているところがある」という言葉。
まさか7年にも渡って抜け続けることになるとは、夢にも思わなかった。
「さつき、ちょっといい?」
「なーにー」
「さつき宛に郵便が届いてるよ」
「わたしに? なんだろう……」
部屋にやって来たやよいから、郵便物を受け取る。
大判の封筒には、長瀬エンターテインメントの文字。
それは『星屑のフロンティア』の開発会社だ。
封を開けると、出てきたのは感謝の意が書かれた一枚の手紙。
「ええと、同じクエストに7年、30000回以上に渡って挑み続けるという素晴らしくもクレイジーなプレイに、最大の感謝と敬意を――」
そして、一枚の賞状だった。
「ギネス世界記録……」
内容は、フルダイブMMOにおける同一クエスト連続挑戦記録。
「な、何これー!」
さつきは足音も荒く、階段を駆け下りる。
「もうもうっ! ちょっとお母さん!」
「なぁに?」
「…………壁掛け用のフックってある?」
部屋の目立つところに、賞状がぽつり。
壁にかけた額縁の角度を調整して、「よし」と大きくうなずく。
「一応、わたしの7年間の記録だからね」
思いがけず豪華な賞状がもらえて、ちょっとうれしいさつき。
あらためて、読みかけになっていた開発からの手紙に目を向ける。
「つきましては、この件を記事にさせていただいてもよろしいでしょうか。長瀬エンターテインメント開発主任、長瀬宗次郎…………き、記事ーっ!?」
とんでもない勘違いによって生まれた悲劇が、賞状だけでは飽き足らず記事にまで。
これにはさすがに頬をふくらませながら、さつきは即座にメールを送りつける。
『――――素敵な記事にしてくださいね』
そしてもう一度、ベッドに伏せる。
7年に及ぶ孤独なレベル上げは、さすがに長すぎた。
大きく、深いため息を一つ。
「……そういえばまだ、雪山にも砂漠にも行ってないなぁ」
不意に思い出す。
そもそも『星屑のフロンティア』は、その美しい世界を冒険したくて始めたゲームだったということを。
「そうだよ。行ってないところ、してないことだってたくさんある」
そうと決まれば、話は早い。
さつきは勢いよくベッドの上に立ち上がる。
レベル上げはもうたくさんした。だから。
「これからは、めいっぱい楽しんじゃおうっ!」
さつきはレベル上げに費やした7年分も、まとめて取り返すくらい楽しんでやろうと決意する。
こうしてメイの本当の冒険が、何より最高に楽しいゲームライフが始まるのだった。
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