第7話 めいっぱいの大活躍!

「あいつだ、あいつを潰せー!」


 ボロボロの初期装備に、ダイナミックな戦い方。

 とんでもない新人の登場に、プレイヤーたちが徒党を組んで襲い掛かる。

 それを一人倒し、二人倒し、そのまま十人ほどを見事に返り討ち。


「よし! これならまだまだ――」


 と、意気込んだところに現れる、二十人ほどの猛者たち。


「あはは……わああああっ!」


 その威圧感に、思わず逃走。

 転がり出るようにしてその場を駆け出すと、視線の先には――。


「汝が回帰するは闇より深き深淵なり――――フレアストライク」


 強力な魔法でライバルを消し飛ばす、黒ずくめの少女。


「クックック、まったくたわいもない」


 一撃で数十人の参加者を吹き飛ばした黒少女のもとに、メイは駆けていく。


「崩壊し、現界し、断罪せよ、我が魔性の名のもとに。フレア――」


 そして再び詠唱を始めた黒少女の、目と鼻の先まで接近すると。


「失礼しますっ」


 まさに魔法を放つ寸前。

 目前でにこっと笑い、そのまま飛び込み前転で黒少女の股下を潜る。


「――――バースト」

「う、うわああああああああ――――っ!!」


 追いかけてきた猛者たちが、黒少女の魔法に巻き込まれて消える。

 人の魔法を利用した一斉撃破。

 これではメイのポイントにはならないのだが、そんなことは考えてもいない。


「やったあ!」


 ただうれしそうに、ぴょんぴょんとジャンプする。


「なんだよあいつ……!?」

「あんな戦い方、見たことねえぞ!!」


 観戦者たちがあげる驚きの声。

 波乱を起こし続けるメイは、すっかり台風の目になっていた。

 しかし。勝ち続ければ当然いつか対峙することになる。


「……面白い」


 新たな生贄を求める強者に。

 メイの前に立ちはだかったのは、全身鎧に両手剣を携えた前回イベントの優勝者。

 自然とぶつかり合う二人。

 剣士は特攻を仕掛けてくる。

 その重い振り下ろしを、メイはスルッとかわす。


「おっととと!」


 続く大きな斬り上げを、身体を後ろへ投げ出すような形で回避。

 そのままゴロンと後転すると、一転大きな踏み込みからショートソードを振り上げる。


「うおおっ!?」


 予想外の威力に足をフラつかせた剣士は、続く一撃に体勢を崩した。


「なんだこの攻撃力は!? こ、こうなったら――――ッ!!」


 追い詰められた剣士は両手剣を掲げ、そのまま全力で振り下ろす。

 スキル【一刀両断】

 メイはこれもあっさりかわしたものの、立ち昇った砂煙に視界が塞がれた。


「それなら今のうちに……【モンキークライム】!」


 この隙に壁を蹴り、木登り感覚でヘリをつかむとスルスル倉庫の屋根へと上がっていく。

 やがて煙が、海風に運ばれ消えた。

 剣士はその両手剣で、全力の薙ぎ払いを放つ!


「喰らえーッ! 【大波紋斬り】だああああっ!!」


 剣士を中心に広がる円形の衝撃波。

 それは前回イベントで猛威を振るった、この重装剣士の必殺技だ。


「…………あれ?」


 しかしそこには、誰もいなかった。

 代わりに聞こえてくる、軽快な足音。

 軽やかに屋根を駆け降りてきたメイは、剣士目がけて一直線。


「せーのっ! 【ラビットジャンプ】!」


 そのまま大きな跳躍をみせる。


「いくよ! わたしの必殺技――――っ!」

「つ、ついに出るのか!」

「一体、どんな技を使うんだー!?」

「早く、早く見せてくれ――――っ!!」


 中空でショートソードを振り上げたメイに、観戦者たちが期待の声をあげる。


「ジャンピング――――!」

「「「ジャンピング――――!?」」」

「【ソードバッシュ】!」

「「「【ソードバッシュ】かよ!」」」


 思わず声をそろえる観戦者たち。

 ジャンピング【ソードバッシュ】を叩き込まれた剣士は、吹き飛ばされて壁に激突。

『衝突ダメージ』による追い打ちまできっちり喰らって、退場となった。


『――――制限時間終了です!』


 そしてここでタイムアップ。


「楽しかったー!」


 こうして初参加のメイは、大活躍のままイベント終了を迎えたのだった。


   ◆


「それでは、いよいよ結果発表です!」


 バトルロワイアルが終わり、集まった参加者たちの前で運営が順位の発表を開始した。


「第3位は――――アーテリーテ!」


 集まった参加者たちから、拍手があがる。


「続いて第2位は――――ふらっと!」


 呼ばれたランカーたちは、うれしそうに壇上へ。


「さあいよいよ優勝者の発表です! 栄えある第1位は……」


 静まり返る観戦者たち。呼ばれたのは。


「――――紅蓮侍!!」

「おおー!」


 パチパチと盛大な拍手を送るメイ。

 しかしまだ、発表は終わっていなかった。


「そして最後! 皆さんもう『アイツしかいない』と思っているでしょう! 今回のイベントMVP!」


 大勢の参加者たちが、一斉に『心当たり』に振り返る。


「――――ポイントでもベスト10に入っていました。初参加で前回優勝者を破る大活躍! 野生児のメイだぁぁぁぁ!!」

「やったー! …………野生児?」


 巻き起こる盛大な拍手の中、メイは首を傾げる。

 その跳び回るような戦い方や、ズタボロの格好から付けられた呼び名にも、本人はピンと来ていないようだ。


「まあいいか」と、色あせたマフラーを下げると、わずかにどよめきが起こる。


「かわいい」

「何あれ、すげー美少女じゃん」

「……惚れた」


 ペコペコ頭を下げながら壇上にやって来たメイに、司会者がさっそくマイクを向ける。


「MVPおめでとうございます」

「ありがとうございますっ!」

「いやー野性味あふれる戦いでしたね。もしかして……山で狼にでも育てられたんですか?」

「そ、育てられてませんっ!」


 そんな司会者の冗談に真面目に答えたメイに、笑いが起こる。

 しかしその直後。


「トカゲです!」

「…………はい?」

「トカゲに育てられました!」


 そんな謎発言に、その場にいた全員が首を傾げたのだった。

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