第3話 とんでもない勘違い!

【名前:メイ】

【クラス:―】


 Lv:1

 HP:30/30

 MP:12/12


 腕力:10(+12)

 耐久:10(+5)

 敏捷:10

 技量:10

 知力:10

 幸運:10


 武器:【ショートソード】攻撃12

 防具:【冒険者の服】防御5


 スキル:―



「あっ、モンスターだ!」


 ステータスを見ていたメイの目が、それを捉える。

 ジャングルで最初に立ちはだかったのは、派手な赤紫色のスライムだった。

 定番モンスター、スライムの亜種だ。


「えいっ!」


 メイは手にしたショートソードでさっそく攻撃をしかける。


「うわっ」


 数度の攻撃の後、スライムの飛び掛かりがかすって尻もちを突いた。


「やったなー」


 一発かすめただけでHPの8割を奪われる。それは明らかな場違い。

 しかし、初心者ゆえに気づかない。


「やったー!」


 ようやくの初勝利に、ぴょんぴょんしながら喜ぶメイ。

 するとそこに、一人の少女がやって来た。

 年齢は16歳くらいか、長い茶髪を留める赤い花飾りが可愛らしい。


「君……ケガしてる? いま治療するね」

「わあ、ありがとうっ」


 少女の回復魔法によって、HPは全回復。

 メイが初めてのヒールに喜んでいると――。


「っ! 隠れて!」


 少女は慌ててメイの手を引き、茂みに身を隠す。

 するとその直後、樹木を押し倒すほどの巨体を引きずり進む、あざやかな黄色のトカゲが現れた。


「うわ、おっきい……」


 目前を横切っていく大トカゲ。

 息を潜めて二人、通り過ぎるのを待つ。


「さ、今のうちに逃げよう」

「うんっ」


 少女に案内されるまま、ジャングルを進むメイ。

 たどり着いたのは、小さな村だった。


「わあ……きれいな村」


 色とりどりの花で飾られた家々。

 並ぶ白いかやぶき屋根とウッドデッキは、どこか南国を思わせる。


「おや、いらっしゃい冒険者さん」

「こんにちは!」


 気さくに声をかけてくれる住人たち。

 身に着けた、あざやかな民族衣装が涼しげだ。


「ただいま」

「お姉ちゃんっ!」


 少女のもとに駆け寄って来たのは、幼い三人の子供。


「帰りが遅いから心配したんだよ。大トカゲに食べられちゃったんじゃないかって」

「待たせてごめんね、大丈夫だよ」

「……あの大トカゲ、そんなに怖いんだ」


 たずねるメイに、少女は表情を暗くした。


「この村は、獰猛な『ゴールデンリザード』たちに困ってるの。このままじゃ……村が潰されてしまうかもしれない」

「ええっ!?」


 まだ幼い弟や妹を抱きしめて、憂いの表情を見せる少女。

 そして優しいお姉さんが困っているのを、メイは放っておけなかった。


「それなら、わたしに任せて!」

「……え?」

「この素敵な村と優しいみんなを、守りたい」

「で、でも」

「わたし、がんばるよ!」

「…………ゴールデンリザードの弱点は、胸元にある色違いの鱗。村を……みんなを……おねがいします」


 こうして、初めてのクエストが発生した。


「りょーかいですっ! あとはまかせて!」


 メイは意気込み、踵を返す。


「そういうことなら、村の周りにいるモンスターも倒しておいた方が安全だよね。毎日パトロールして、お姉さんにゴールデンリザードの話を聞いたら急行しよう!」


 メイの考えたこの作戦は、見事にハマってしまうことになる。

 まずは付近の赤紫スライムから。

 勝てるモンスター相手にレベルを上げ、後にゴールデンリザードの弱点を突きにいくという理想的な形で。

 しかも他プレイヤーがいないこの村なら、モンスターは独り占め状態だ。


「よーし、さっそくパトロールだ!」


 ショートソードを握った手を「えいえいおー!」と突き上げる。

 この時、ゲーム初心者のメイは勘違いをしていた。


「――――戦い続けていれば、いつかモンスターはいなくなるはずっ!」


 そんな、とんでもない勘違いを。

 もちろんモンスターを狩り尽くすことなどできない。

 そうとは知らないまま、大トカゲ退治のクエストをこなし続けること――――34658回。


 小学生だったさつきは、高校生になっていた。

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