第2話 いきなり迷い子に!?

 全天モニターに映し出された青い星。

 その空間には、銀髪のミステリアスな少女がたたずんでいた。


「はじめまして。私はチュートリアルAIの【HMXX-18b・ベータ】と申します」

「青山さつきです。よろしくおねがいしますっ」

「こちらこそ、よろしくお願いいたします」


 ベータは折り目正しく頭を下げる。


「星屑のフロンティアのテーマは王道。剣や魔法、そして無数のスキルによる戦いをメインとしています。戦争によって滅んだ旧文明の遺跡があり、その研究によって様々な文化が発展した世界が冒険の舞台です」

「はいっ」


 流麗な解説に、さつきは小気味よく返事する。


「まずは、星屑のフロンティア内で使用する名前をお決めください」


 これはもう決まっている。

 先日受けた英語の授業で、これしかないって名前を発見済みだ。


「――――『メイ』でおねがいします!」

「メイですね、了解しました」


 もちろん『さつき=五月=メイ』である。


「続いて体型のスキャンに入ります」


 中空に放たれたレーザーが、現在のメイの体型に沿って身体を形作っていく。

 肩までの黒髪に、ぱっちりした目。

 身長140cmの平均体形。

 正統派アイドルのような少女が、空間内にできあがった。

 初期装備は胸元だけを守るライトアーマーにレザーブーツ、武器はショートソードというシンプルなもの。

 さつきはクルクル回って自分の姿を確認する。


「これって、成長したらどうなるのかな」

「スキャンは半年ごとに行われ、更新されます。体型の誤差はそのままアクション時の違和感につながってしまいますので」

「ほえー」

「戦闘方法や細かなシステム等は、これから転送される街にてご確認いただけますので、そちらでお確かめになってください」

「りょーかいです!」

「また予約特典のランダム配布アイテムも、転送先にてご覧いただけます。それでは良きフロンティアライフを」

「はいっ。ベータさん、ありがとうっ」


 笑顔でAIに手を振るさつき。

 AIもさつきに手を振り返す。

 明転していく世界――――気がつくとそこは、大きな城下町を目前にした草原だった。


「さっそくもらったアイテムを確認してみよう!」


 アイテム欄を確認すると、そこには【グリフォンの羽】というアイテムがあった。

 これがメイに配布されたアイテムだ。


「どれどれ? 世界のランダムな地点に移動する……かぁ」


 メイはグリフォンの羽を取り出して、しげしげと眺める。


「ランダムってなんだろう……使ってみれば分かるかな?」


 そしてうっかり、アイテムを使用してしまった。


「……えっ?」


 ライトエフェクトと共に、さつきは一瞬で大空へ舞い上がる。

 果ての見えない大空、どこまでも続く緑の大地、雪の残った山々が一気に視界に飛び込んでくる。


「うわぁ、きれい……」


 その美しさに、思わず感動の声をあげる。

 すると次の瞬間メイはまばゆい光球になり、高速で上空を飛んでいった。


「……ここは?」


 到着したのは、無数の樹木が立ち並ぶ密林の中。

 木々の隙間から差し込む陽光は強く、少し蒸し暑い。

 聞いたことのない動物の鳴き声が、四方八方から聞こえてくる。

 視線を上げてみると、見たことのないあざやかな色の鳥が空を飛んでいった。


「もしかして…………ジャングル?」


 正解。メイがたどり着いたのは、始まりの街から遠く遠く離れたジャングル地帯。

 他プレーヤーがやって来るまで何年もかかることになる、前人未踏の地だった。

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