幽霊と書蠹

黒咲ゆり

幽霊と書蠹

私がまだ人付き合いが苦手で本の虫、書蠹と言われていた頃の話。


誰かと喋りたいと気持ちがあっても人とどう喋ればいいか分からず、文字の世界に逃げるように本を読み漁っていた。


私の日常は人があまり来ない旧図書室で1人静かに本を読む、ただそれだけだった。

この学校にはもうひとつ新図書室が存在し、多くの蔵書は新の方に置かれており読むことが日常となっていた私は旧図書の本を残すところあと1冊となっていた。


そんな時に現れたのは不思議な少女だった。


こんな古びた図書室に来るには明るく元気で私とは全く正反対と言っていい、そんな少女であった。


私は人見知りが激しくいつも喋ったこともない人と接すると途端に喋れなくなる。しかし彼女はその持ち前の明るさと本という共通の話題があったからなのだろう、初めて赤の他人と喋ることが出来た。

そこからは本を読みに来るのでは無く彼女と喋るために来るようになった。


そんな日常を過ごしていくうちに不思議と他の人とも喋れる気がしてきた。いつも逃げていた心根が嘘だったかのように。


私といえばなんと簡単な人なのだろう。結局は勇気さえあればこんなにも望んでいたものが手に入るなんて。


友人というものを持ってからは、世界は輝きに満ち溢れていた。その輝きに魅入られた私は日常を忘れていた。

彼女との日々を。それに気づいた時には1週間がたっていた。


旧図書に訪れたが結局彼女は来ることは無かった。

しかし、机の上に本が置いたままなのに気づいた。

その本はここでの最後の本。彼女が来てからずっと読まないであった本であった。タイトルは『僕と幽霊』


その本は私と同じように図書室に逃げ込んでいた少年と少女の幽霊との出会いと別れの話であった。


読み終えた時彼女は目の前にいた。

「その本、読んでしまったんだね。」

私は何も喋れなかった。

続けて彼女は「君はもうひとりじゃない。きっとこの本の少年と同じように生きていける。」

君とはもう会えないのか、私は彼女は消えるそんな気がして聞かずにはいられなかった。

「死んでしまっている私は、君にはもう必要ないよ。」

最初にできた友人、居なくならないでくれ、そう言おうとしたが意識が薄れていく。

「私の分まで生きてね。さようなら。」

私は寝ていた。彼女はもうどこにも居なかった。



不思議な出会いと私の人生が変わった瞬間、そんなお話。

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幽霊と書蠹 黒咲ゆり @kuro_shousetu

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