第119話 イベント会議

もう七月が終わり、とうとうイベントが目前まで迫ってきた。


イベント一週間前になったらセカプロ公式で生放送を行ってイベントの詳しい情報を解禁することになっている。


ゆうきは今日も事務所に来ていたが要件はそれだった。


「失礼しまーす」


ゆっくりと会議室の扉を開ける。


「お、か。もうすぐ始めるから待っていてくれ」


そう言われてゆうきはいつも座っている席に着き、置かれていた資料に目を通す。


今日までにほとんどの収録を終えているので内容はほとんど知っているが、変更が無いか要チェックをする。


そうしている間に準備が整ったのか、柊が司会となって会議を開こうとしていた。

因みに草薙は今回出演側なので席に着き参加している。


「全員がそろったので始めようと思います。まずはイベントの大まかな流れの確認から—―」


手元の資料と事前に聞いていたものと照らし合わせながら説明を聞く。


ところどころ空欄があることに気が付き質問してみると...


「ああ、そこは進行などで時間が押したときなどに帳尻合わせをするための物ですね。あとはまだ進行中の物だったりは都合上載せていません」


丁寧に柊がそれに答える。最近ゆうきはこうして聞くなどのことに遠慮や物怖じしないようになった。とても大きな成長だ。


回りのメンバーはそのようなことを考えて気持ちを和ませた。


 そのまま資料を見ての会議は順調に進んだ。続いてステージ移動等の確認のために場所を移り、事務所の中で一番広いスタジオに。


「それではここからはステージ上に置いての説明になります。まず最初の—―」


 普段は2Dモデルを利用して配信を行っているが、今回は3Dモデルをフルトラッキングで使用する。

 そのため、ステージを立体的に大きく使うために基本自由ではあるものの、最初の立ち位置や入退場については少し細かく指示される。


「あ、六道さんはもう少し右です...そうそう!そこです」


まるで学校の先生の様に指示を出す柊。不思議と彼の姿はなかなか様になっている。


「...よし、大体はそんな感じです。しかし当日は何が起こるかわかりませんので、その時は臨機応変に動いてくださいね」


ステージに関しての説明は予定よりも長引きながらも滞りなく終わった。


「――ということで、今日はこれで終了です。今説明したもので変更はない筈ですが、何か変更があった際にはもう一度通知しますのでよろしくお願いします」


「「「「「「「「おつかれさまでした~」」」」」」」」


全員でそう挨拶をして解散になった。


「ゆ~ちゃんお疲れ~」


いつものテンションでゆうきに話しかける莉奈。しかし長丁場になったこの会議のおかげで若干疲れが見える。


「アイン先輩こそお疲れ様です」


「え~硬いよ~...まあ、次会うときも元気な顔をみせておくれよ~」


それだけ言って莉奈は会議室を出た。相変わらず嵐のような人だ。


他のメンバーもゆうき等に一言二言挨拶をして各々は徐々に帰路につく。


「あ、ゆうき...」


少しぎこちなく手を挙げて声をかけたりんと。


「あ、


「お、おつかれ」


そう呼ばれたりんとは同様しながらもねぎらいの言葉を掛ける。


「しゃちょーこそお疲れ様です...って、すいません、電話が...」


なんというタイミングの悪さでゆうきのスマホに電話が入る。

会議も終わり、解散となったのでゆうきは申し訳なさそうに電話を取るために外に出た。


持ち前の小柄な体形で人の合間を縫うように進み会議室を出ていったゆうきをりんとは茫然と眺めていた。


(いかん、本当に嫌われてしまったな...)


肩を落としてりんとも帰路につくのだった。


◇◇◇


〈お、なあゆうき、急でわるいんだけど宿題に出てるさ数学の——〉


電話に出てみるとクラスメイトの昌の声が耳に届く。


「昌君ごめんね!今外だから...」


〈な!そういうことは早く言えよ!何だったら拒否してくれてよかったのに...それじゃあ、そっちのタイミングで大丈夫だから、また。すまんな、変なタイミングで掛けちゃって〉


「ううん、大丈夫だよ」


そうして30秒に満たない通話は終わり、ゆうきはりんとが何かを言いかけていたことを思い出して急いで会議室に戻った。


◇◇◇


「ごめんなさい!急に電話が鳴っちゃって、でなんの話....って」


扉をあけてすぐにそう言うゆうきを周囲は少し驚き注目を集める。


「あ、あれ?」


「どうしたのゆうき君?」


いつも話してくれるスタッフがゆうきに聞く。


「あの、と...社長がボクに何か言いかけてて...」


「あら、社長はもうお帰りになったわよ?」


「...そうですか」


「あの社長の事だから大した用じゃなかったんじゃないかしら?もしそうだったら連絡なりが後から来ると思うわよ?」


「そう、ですね...ありがとうございます」


スタッフの言う通りだと納得したゆうきはもう一度会議室を出て、今度こそ帰路に着いた。

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