第118話 後ろに引く影
いくら体育で運動をしてるとは言え、インドア派のゆうきの体力はたかが知れている。
その為少し走っただけで息が上がってしまい、近くの公園で息を整える。
「....はぁ」
ベンチに腰を掛けて休んでいたゆうきは息が整ったのに家に帰ろうとしなかった。
喧嘩別れのような形で飛び出してきたのだ、家に向かう足取りは軽くはないだろう。
気が付けば空が茜色に染まっていた。夏になり日が伸びたおかげで18時を過ぎても太陽の光が見える。だけど油断しているとすぐに真っ暗になってしまうのでゆうきは重い足取りで家に帰って行った。
◇◇◇
「....ただいま」
足取りと同じく重い扉を開けてゆうきは帰宅の挨拶をした。
「おかえり」
奥からヒョッコリ顔を出して蒼が帰りを迎えた。
そのままゆうきは蒼のいるリビングに向かう。
「...母さんは?」
「もう帰ったわ。ごめんなさいって、言っていたわ」
「...そっか」
出していた食器を洗いながら蒼は答えた。
少しの間を開けてゆうきはもう一つ聞いた。
「じゃあ、父さんは?」
「トラブルがあったとかでお父さんも行ってしまったわ」
「...そっか」
そうしてまた静かさがこの部屋に満たされる。とてもここに二人がいるとは思えないほどの静けさ。聞こえてくるのは洗い物の音だけだった。
どれほどの時間がたったかはわからないが、部屋から水音が消えた。洗い物が終わったのだろう。
「そうだ、ゆーくん。悪いんだけど、私も帰らなきゃいけないの。レポートの期日が迫っててさ」
「うん、頑張ってね」
「ごめんね」
そう言って蒼もこの部屋から出ていった。
(別に理由をつけなくてもよかったのに...)
普段なら考えないようなことまで考えだしてしまう。ネガティブな気分はネガティブな思考しか生み出さない。頭を振って振り切ろうともするがもちろんそんなことで晴れるはずもなく、どんどん気分が沈んでいく。
今日は配信予定だったけど、こんな状態では楽しい配信なんてできないと判断したゆうきは休む旨をピピッターで伝えてベットに突っ伏せる。
今日の緊張からか、ゆうきはゆっくりとその瞼を閉じた。次に開くのは明日の朝の事だ。
◇◇◇
あれから約1週間。ゆうきは調子を前までとは言わないが取り戻し、いつも通り活動をしていた。
あえていつもと違うことを言うならば、りんとと会わなくなったことだろう。
イベントが着々と近づく中、それには比例するようにゆうきが事務所にくる頻度が上がっている。
ほぼ毎回何かと理由を付けてゆうきを呼び他愛もない話をしていたのだが、それがめっきり無くなった。
お互い出演者ということもあって忙しいからという理由にして割り切って居るつもりらしい。
だが、ゆうきは顔にとても出やすいのでいつも見ているメンバーには筒抜けだった。
いつもなら「わかりやすいな〜」と笑うのだが、彼の笑顔に引く翳りがそれほどに軽いもの出ないことを証明している。
ゆうきや蒼、りんとや他のメンバー、そして恵子も良策が思いつかず、ただ時が過ぎていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます