第115話 話し合い――①
さっきのような和やかな雰囲気はいつの間にか消え去り、重くまじめな空気へとすり替わっていた。
誰もそのような発言をしていないのにこの空気になったのは、ある意味必然だったのだろう。
「まず先に...」
皆が空気感を感じ取り、黙りこくっていたのを破ったのは恵子だった。
「謝らせてくれないかしら?」
そう言われたゆうきは一瞬顔を驚きの表情に変えた。もちろん蒼も少なからず驚きを感じていたが、一番反応を示しそうなりんとは目元が少し動く程度だった。
「いきなりこんなこと言われても困るわよね...でも、この間はごめんなさい。夜道であのようなことをして、怖がらせてしまったわよね」
恵子は本当に申し訳なさそうな表情でそれを言った。
その様子を見たゆうきは前回会ったときとの性格などの違いから驚き、戸惑っていた。
「た、たしかに怖かったけど...うん、もう大丈夫だよ」
少し間が開いたがゆうきは恵子の謝罪を受け入れてそれを許した。
「...ありがとう」
その言葉を聞いた恵子は少し表情が緩んで礼を言う。
「そろそろ、本題に入ろうか」
そう言って仕切り始めたのはりんとだった。双方の事情をよく知っているりんとなら適任なのだろう。
「先に言っておくと、本来恵子がここに来ることは大分おかしなことなんだ」
「それは、私も思ったわ」
りんとが言ったことに恵子も同意した。
本来、このような事柄では、被害者のある種の避難先とも言える場所に加害者を招くなどまず無い。
「これはゆうき自身が望んだ事だからこうしたんだ。恵子もそこを頭に入れておくように」
「え、ええ」
恵子はゆうきがそのような提案をしたことに驚きを隠せなかった。自分のことを嫌っていると思っていたゆうきから言われたことだったなんてことは到底想像していなかったからだ。
「なんで母さんはボクが呼んだって知らないの?」
「それは俺が言ってなかったからだな」
ゆうきの当然の問いかけにそう返すりんと。どこに行っても変わらないスタンスに呆れつつもどことなく安心感を感じる。
「...そのことはまた後で話すとして、どうしてゆうきはこうしたんだ?一応俺は知っているがもう一度言ってくれるか?」
場所の提案の時に理由はりんとに伝えていたが、ここにいる全員に知らせる意味も込めてりんとはああ言った。
「母さんが悪い人ではないことは知ってる。それに、どうしてボクにあんな態度をとったかも知ってる。だからボクは自分一人でもやっていけるって証明したかったんだ。それに、しっかり話も聞きたかったしね」
何か考えがあったんじゃないか、絶対何か意味がある。
恵子もそう考えていた。
でも恵子が考えていたこととは同じ意味でも違っていたのだ。
ゆうきが自分に対して復讐心や怒りをぶつけてくるのではないかと考えていたのだ。
しかし実際は異なり、ゆうきは自分に対して正面から向き合い話し合おうとしている。
そのくらいならきっと別の場所でもできただろうに
この時の恵子はそう考えていた。
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