第111話 知らないこと【改稿しました】
配信終了ボタンとマイクをしっかりとチェックして切れている事を確認した後、あまりしゃべっていなかったお姉ちゃんが口を開いた。
「...で、本当はどういう要件なの?」
「ま、お前にはバレてるわな」
「え、えっと?」
お姉ちゃんは何かに気が付いていたようだったがボクには何のことかさっぱりわからないから疑問の声を上げた。
「俺がここに来たのは単に朝ごはんを食べに来たわけではないってことだ」
父さんはそう言うとソファに座りなおす。その様子を見て、食べる気ではいたんだという言葉は口には出さず呑み込んだ。
「昨日、
そう言われた瞬間、昨日の出来事がフラッシュバックしてボクの体が一瞬震える。
「...うん」
「正直に言ってくれ。その人は本当に母さんだったか?」
父さんの言う意味が少しわからなかったが、素直に答える。
「前見た時より雰囲気とか服装が全然違ったけど...あれは間違いなく母さんだよ」
「そうか...」
父さんはそれだけ返して俯いてしまう。
「水を差すようですまないが、俺たちは席を外した方が良いのではないか?」
その雰囲気から察した六条さんは、ボクたちの会話の折を見てそう聞いてきた。
「その逆だ、お前たちにも手伝ってほしいんだ。もちろん無理にとは言わない」
普段より重い声音でそう言った父さん。
「...なら俺は話を聞くとしよう」
今一度座りなおした六条さんの言葉に他のみんなも賛成の様で首を縦に振り、続く言葉に耳を傾ける。
父さんも他のみんなの行動を見て頷き話を続けた。
「簡潔に言うとだ、ゆうき。お前があったのは母さんであって母さんじゃない」
「どういうこと?」
「多重人格とか、二重人格って聞いたことがあるだろ?実際にそういう病気があるんだ...まあ、俺も最近知ったことなんだが」
「そう...なんだ」
いきなりこんなことを言われたのにも関わらず驚きとか、そういうものは出てこなくて唖然という言葉が合うような返事しかできなかった。
「あ、ここは安心しろ。これにはれっきとした治療法があるんだぞ?母さんもそれを行っていたそうだ」
「だけど、それが上手くいかなくなったの」
どうやらお姉ちゃんもこのことは知っていたようで、説明に加わった。
「どうしてかはわからないけど、ゆーくんが家を出る一年くらい前からどうにもうまく治療が進まなくて、それを止めていたみたい」
そのあとも色々聞かされた。
今現在治療を再開している事。
追い出したことを悔やんでいること。
謝りたいと言っていたこと。
色々わかって嬉しい半面、同時にボクの知らない事がいっぱいあったことを知らされた。
そのショックが大きくて、大事な話なのに途中からそのことが頭から離れず、話半分になってしまっていのだろう、気が付いたら話は終わりに差し掛かっていた。
「...と、いうわけだ」
六条さんは頷きながら話を聞き、要約して聞き返す。
「大体は分かった。要は似たようなことが起きる可能性があるからゆうきを守ってほしいというわけだな?」
「ああ」
その解釈であっているようで父さんは頷いた。
「マネージャーとしてしっかりゆうき君を守りますよ!」
草薙さんも張り切るような素振りを見せてこう言ってくれた。
「ゆうき、混乱する気持ちはわかるが...って、大丈夫か?」
「え?うん、大丈夫」
急に声をかけられてびっくりしながらも返事を返す。
「なにかあったら言えよ?」
ボクを心配してそう言ってくれた父さんになるべく悟られないように返事を返す。
「うん、ありがと...」
そうしてまた話は続き、ややあって解散の運びになった。
◇◇◇
それからしばらくして夜の配信の準備をする頃になったけど、どうにも手が付かず、結局配信を急遽お休みしてしまった。
配信をお休みすることをピピッターで知らせ終わるとボクはベットに入る。
今はお姉ちゃんもいないのでこの家には完全に一人。そのせいかは分からないけど、無意識に言葉が漏れた。
「...家族なのに」
家族の中でも確かに秘密はあると思うけど、大事にかかわることまで秘密にされていた
事に対しての不満がポロリとこぼれたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます