第94話 撮影前
ヘアメイクが終わりそうな頃に京子さんとモデルさんがこの部屋にやって来た。
「入るわよ~調子はどうかしら?」
「もう最っ高です!こんなかわいい子をドレスアップ出来るなんて!今回は今年一番の出来ですよ!」
興奮気味にそう言ったスタッフさん。頭は動かせないから視線だけを向けると、鏡越しに楽しそうにこちらを見る京子さんが映っていた。
「それは楽しみね、どれどれちょっと覗き見でも...」
「だめですよ~完成まであと少しなのでもう少し待っていてくださいね?」
冗談を言いつつスタッフさんはまたヘアメイクを再開させた。
◇◇◇
ややあって、ヘアメイクが終わったらしく息をついたスタッフさん。
「もう動いても大丈夫だよ、これで完成!どう?」
美容院で見るような鏡を持ちながらそう聞いてきたスタッフさんに対してボクが答えられたのは単純な言葉だった。
「すごいです!なんかこう...雑誌で見るような感じで!」
「そうでしょうそうでしょう。なんたってこれから雑誌の撮影だからね~」
いたずらな笑みを浮かべるスタッフさん。その後ろに京子さんとモデルさんが控えていた。
「どれどれ...良く似合ってるじゃない!」
「ありがとうございます。あ、それと待たせちゃったみたいですいません...」
「なにを謝ってるのよ~そんなことないわよ」
「その場合怒られるのは私なので心配無用です!」
自虐的に笑うスタッフさんと一緒にみんなで笑った。
ひとしきり話したあとにとうとう撮影現場に向かうことになった。
◇◇◇
「お、来たな」
現場に着くと立派な一眼レフを二つほど下げた男性が出迎えてくれた。
「平野さんお待たせしてすいません」
隣に立っていたモデルさん...ヒナさんがそう言って頭を下げる。
「いいのいいの。こういうアクシデントは現場では付き物だからな!まあ、無いに越したことは無いがな!はっはっは!」
そう言って豪快に笑う平野さんにボクは若干気圧されてしまった。
「ちょっと平野さん、ゆうき君が怖がってるわよ」
京子さんが冗談めかしに平野さんの背中を叩く。
「やや、これはすまん!って、なあ京子さんよ、ほんとにこの子は男の子かい?ってもういないじゃん...」
平野さんは自分の後ろに立っていた京子さんに聞きたかったらしいがそこにはもう京子さんの姿は無かった。
今は服装とメイクが相まっていつも以上に間違えれる要因が多いけど...そんなに男に」見えないかなぁ?
「一応男です」
「やや。これまたすまんな!」
また豪快に笑う平野さん。少し話を聞いてみるに一度大きなものを片付けを始めてしまったものだから再設置に時間がかかっているとの事だ。
「ゆうきがその服ってことは、ヒナちゃんもそれに合わせた感じか」
「ええ、そんな感じですね」
「え!もしかして予定の服とかあったんですか!?」
平野さんが言う事が本当ならボクの為にわざわざ衣装を変更してもらったことになるのだ。
「元々の子と着る予定の服はあったけど、ゆうきくんと着る予定の服は無かったから大丈夫だよ!それに実は私もその服をきたいな~って思っていたし」
ヒナさんが優しく答えてくれた。
モデルを本業にしている彼女ならそういう事は無いはずなのにわざわざそう言ってくれた。
「ありがとうございます」
「ふふっ、どういたしまして」
そんなことを話していると別のスタッフから声が掛かる。どうやらセッティングが終わったようだ。
「あ、終わった見たいですね」
「それじゃ行こっか」
「はい!」
こうしてとうとう撮影が始まるのだった。
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