第93話 下準備

 そうして通されたのは多分衣装部屋。ここまで服が並んでいるのは服屋さんぐらいだからね。


「さてと、ここから君が撮影で着る服を選んでいくわけなんだけど...」


そう言いながらスタッフさんは服をごっそり20着ぐらい持ってきて言った。


「どれ着たい?」


「え?こういうのって決まってるものじゃないんですか?」


ファッション系の雑誌とかならそのメーカーの新作とかを載せることが多いと思うけど...


「確かにそうなんだけど、今回は少し沢山試作品があるから選べるのよ、それに着たい服を着たほうがその分表情も良くなるわ!」


「なるほど、でも迷っちゃいますね」


少し服を眺めていると一着の服がボクの目に留まった。

パステルカラーで涼しげなカラーリングであまり装飾は細かくなくて普段使いもいけるようなデザインだった。


「あ、これ...」


「どれどれ~あ、すごいね君は!デザイナーが一番気に入ったやつだよこれ」


「そ、そうなんですか」


因みにこれを選んだ理由は唯一ズボンだったからだ。流石にまだスカートは...


「一応サイズ見ておこうか」


背中合わせでサイズを見てみる。


「あら、全サイズそろえてはいるけど綺麗にぴったりサイズじゃない!」


実際に着てみても理想のサイズ感になっていた。


「もしかしたら君専用に作られたのかもしれないわね~」


「そ、そんなにですか?」


「ええ、よく似合ってるわよ!」


こうやって褒められた事があまりないので妙に照れくさくなってしまった。


「さてと、次の場所に移動するわよ~」


「え、次?」


「だってまだ服しか選んでないでしょ?まだまだあるわよ~」


そう言われボクはまた別の場所に案内された。



◇◇◇



 次に通されたのは控室のような場所。鏡の前にはドラマとかで見たことのあるような光景が広がっていた。


「それじゃここに座ってね~」


言われた通りに鏡の前の椅子に座ると布製のバンドのような物を渡された。


「つけ方わかる?」


「すみません...わからないです...」


「大丈夫よ!男の子だもんね~」


お化粧は最近始めたスキンケアだけなのでまったく知識がないと言っても過言ではない。


 因みにさっき渡されたものは、お化粧をするときに髪が邪魔にならないように上にあげるためのものらしい。寝るときにやるスキンケアも髪が邪魔だったから今度買ってこようかな?


そしてお化粧をしてもらう事10分弱。


「よし!これでどうよ!」


そう言われてボクは閉じていた目を開いた。そしてその変わりように驚いた。


「これが...ボク?なんですか?」


「ええそうよ!ゆうき君は元がいいからあまりすることは無かったわ、やったのはカメラ対策くらいかしら?」


 なんでも最近のカメラの性能はすさまじく、このような現場で使われるようなクラスになると毛穴などが目立つらしい。


「あとは軽くヘアメイクをした後に、アクセサリーをつけておしまいよ」


「ま、まだあるんですね...」


「今回は服がメインだし、まだ慣れてないだろうから髪は整える程度になるし、アクセサリーの方もあまり目立たないものを選ぶからそんなに気にならないわよ~」


 そう言いながら次の準備をしているスタッフさんの手際の良さにプロの格というもの感じた。素人目から見てもすごいことがわかる。というか、どう表現していいかわからないのだ。


 そんなことを考えている間にも仕事を終わらせていくスタッフさんにボクは身を任せるのだった。

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