第91話 代役

突然の申し出にボクは驚きを隠せないでいた。


「ええ!?なんでですか!?」


「さっきも言ったけど、条件に合う子が今ゆうき君しかいなくてね?夏の姉妹コーデだから二人必要なのよ」


「それじゃあ尚の事ボクじゃないですよ!一応ボク、男ですよ!?」


代役が見つかったのかと注目していたスタッフたちは驚きを隠せないでいた。


「え?男!?」


近くにいたスタッフさんがそう溢したのをボクしっかり聞いたからね!


「大丈夫よ!ゆうき君のルックスならなんの問題もないわ!」


「いやいやいや、問題だらけですよ!さっきの話だともう一人のモデルさんがダメでしょ!?」


「そっちも大丈夫よ!あの子の事務所は別にそういう制限は無いから」


なんとしてでもゆうきを使って撮影をしたいという強い思いがひしひしと伝わる言動である。


「そのモデルさんの意志はどうなるんですか?代役が男になると色々あると思うんですけど...」


ゆうきがそう言うと少し納得した様子を見せる京子


「あの子に限ってそういうことは言わないと思うけど...一応確認してくるわね」


京子は足早に姉役のモデルの元に向かうのだった。


◇◇◇


私の名前はヒナ。ファッション系のモデルをやっているわ。久しぶりに京子さんからお仕事貰えたと思ったらトラブルが起きて現在進行形で待機中。


以前だったらやることが無くて退屈だったけど、今はもう違うわ!


さっきのスタッフさんからの話によればまだ時間がかかりそうなので私はスマホを立ち上げてyoutubeを開く。


最近できた推しの切り抜きをチェックする。


vtuberはあまり触れてこなかったジャンルだったけど、偶然ピピッターでの切り抜きが自動再生されたことをきっかけにハマってしまった。


「やっぱりゆいちゃんかわいいな~」


もちろん2Dの立ち絵しか見えないのでどのvtuberも綺麗でかわいいのだけど...ゆいちゃんは何かが違うのよね~言動からにじみ出る可愛さというか、尊さというか


有名になった人の定めではあるけど、最近仕事でつらい事が少し増えてきていた。そんな精神状態を救ってくれたのがゆいちゃんだ。


それからどんどん沼にハマって行き、気づけば赤を投げる立派なしずねえになっていた。


「ヒナ、すこしいいかしら?」


控室に入ってきていた京子さんに気付き私はイヤホンを外してそちらを向く。


「どうしたんですか?」


「今さっき代役の子が見つかってね、ただその子があなたの意志を確認できなかったらやらないって言ってねぇ~」


「私が断るなんてことないですよ~それは一番がわかっているはずでしょう?」


「二言はないわよね?」


レッスンの時のような鋭い目に私は一瞬強張ったけど答えは変わらない。


「ええ、もちろんです!」


「そう、なら行きましょうか」


京子さんはそう言って現場の方に向かっていった。もちろん私もそのあとについていく。


「あ、言い忘れていたわ」


道中京子さんが足を止めた。


「なにか忘れ物ですか?」


「いいえ、ヒナに伝えておかないといけない事を忘れててね~」


「なんですか?」


「代役の子の話なんだけど...男の娘おとこのこなの」


突拍子もない言葉にヒナが唖然としたのは言うまでもないだろう。

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