第90話 それは地味に暑い日のことでした
「暑い...」
夏休みが間近に迫ってきた今日この頃、長期休み特有の特別日課で学校が午前で終わったので買い物でもしようと思い、いつもはまっすぐ帰宅するボクだけど珍しく寄り道をしている。
まだ夏ではないというのにこの暑さ、早く涼みたいボクは足早に店へ向かった。
◇
「結構買っちゃったなぁ...」
両手にある買い物袋を見てそうつぶやく。だって久しぶりに来たからね?
買い物をしている間に太陽は傾いてはいたけどまだまだ日光は強烈にボクたちを照らしている。そんな中この荷物を下げて帰ることを想像してげんなりしていると見知った声が聞こえてくる。
「困ったわね...」
「だ、代役を立てるにも時間が」
「だから困ってるんじゃない!」
声のする方を見ると京子さんが誰かと話しているようだった。
(一応声かけておこうかな?)
一瞬そんなことも考えたが、どうやら仕事中の様子だったので声をかけずに帰ろうとしたときに京子さんがボクの方に走ってきた。
「ゆうき君!声かけてくれればいいのに...水臭いわね~」
「いえ、お仕事中の様だったんで」
「そんなこと気にしなくていいわよ、挨拶もできないぐらい忙しい仕事は私、受けないから」
「ははっ、あ、さっき聞こえてきちゃいましたけど大丈夫ですか?」
ふと気になったことを聞いてみるがさっきまでの雰囲気とは変わって京子さんは少し眉を寄せた。
「あ、すいません!変なこと聞いちゃって」
「べつにいいのよ?まあ...仕事でトラブルが起きてね、熱中症で予定していたモデルの子がダウンしちゃったのよ...今回はペアでの撮影が必須になっているから困っていたのよ...」
「写真のお仕事もやってるんですか!すごいです!」
「ふふっ!ゆうき君に教えてたみたいにアイドルの子たちとかにも教えたことがあるのよ~!」
雑談をしているとスタッフらしき人が急いでこちらにやってくる。
「だめです、一般の方も探してみたのですかやっぱり条件に合うような人は中々...」
「まあそうよね...あの子の調子はどう?」
「そっちもダメです。本人はやる気なんですが体調は良くないのはぼくら素人でも見てわかるレベルなので...」
二人はため息をつき考えるがいい案は浮かばなかったようで首をかしげる。
「やっぱり延期かしらね...」
「ですよね...黒髪で姉役より背が低くてかわいい子なんてそう簡単に見つかりませんからね...」
「そうよね~」
二人は撤収作業をするために腰を上げた。
「さて、撤収しますか!あ、ゆうき君悪いけど私はこれで...って」
「はい、それでは」
「ちょっとまって!」
ボクはそう言ってこの場を立ち去ろうとした時に待ったがかかる。京子さんの方に向くといきなり両肩を掴まれた。
「いたわよ!適任が!」
京子さんがそう声を上げると近くにいたスタッフさんが振り返る。
「本当ですか!」
スタッフさんたちの期待の目に応えるように京子さんは言った。
「ゆうき君もしよかったらモデル、やってみない?」
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