第3話 転機は突然に②

「どういうこと⁉」


「あはははは、びっくりしとるびっくりしとる」


いつもの調子で笑う父さん。

父さんには悪いけど最初は顔が似た別の人かと思ったよ。


「急に呼びつけて悪いな」


ひとしきり笑ったあとで少し姿勢を正した父さんに合わせてボクも姿勢を直した。


「そうだよ、急にここに呼び出すし、しかもセカプロの事務所だしって情報量が多すぎだよ、、」


「そうだなぁ、まあ簡単に説明するとだ」


少しめんどくさそうにしながら言った。


「ここ俺の会社」

「え?」


あ、あれ?父さん確かSEじゃなかったっけ?


「だーかーら!セカプロは俺が作った会社なの」


「 」


開いた口が塞がらないとか言葉にできないってこういうことを言うのだとボクはこの時初めて知ったのだった。





「つまり、セカプロは父さんと父さんの友達で始めたことで気が付いたらここまで大きくなっていたってこと?」


「そういうこと」


満足げに胸を張る父さん。


簡単にまとめるとこうなる。

・父さんの友達がVtuberをやっていた。

・それを手伝ってた流れで事務所を作ることのなった。

・その人が「私、社長向いてないから」と言って父さんが社長になった。


(...漫画みたいなことってあるんだなぁ)


「どうだ、わかってくれたか?」


そう聞いてくる父さんに対してボクは、


「よくわからないけど、うん、わかったよ」


実際そうだからね、しょうがないね!


「そうかそうか」


ニコリと笑いながらうなずく父さん。


「ふう...」


色々情報量が多すぎて混乱してきたけど、これは聞かないと。


「ねえ、父さん」


「ん?どうした」


「家にいるときと随分とキャラが違うけど、どういうこと?」


そう、家にいるときの父さんは黙って新聞を読んでご飯を食べたらすぐ自分の部屋に戻っていく。母さんがいないときはその限りじゃないけど、でも基本的にはこんな感じなのに。


「う~ん」


少し言いずらいようで、視線を少し外したが端的にこう答えた。


「もう少し後で詳しく説明するが、あれだ。ゆうきがあの家を出た今、もう我慢する必要がなくなったってことだよ」


少しの間この部屋は重い空気が支配...することは無かった


「ますた~」


勢いよく部屋の扉が開いたと思ったらボクよりも身長の低い女の子が父さんに向かって走ってきた。


「ライブ疲れたよ~」


「おつかれさん」


あきれながらも頭をなでながらそう返す父さん。

その様子を見たボクは無意識のうちにスマホを取り出しながら声をかけた。


「と、父さん...」


「はっ!待ってくれ、お、落ち着いてくれ」


「これのどこが落ち着いていられるのさ!」


小さい女の子にマスターと呼ばせてあの様子、変なことしてるようにしか見えないよ!?


「その通りです。通報しちゃってください、ゆうきちゃん」


「わあああああ!」


ソファーの真ん中に座っていたボクは一気に端っこまで移動した。

それもそのはず。いきなり耳元で声がしたんだから。


「おい!草薙くさなぎ!お前はこいつをとめろ!」


「いやです」


「おまええええ!」


いつの間にか隣に座っていたのは草薙くさなぎさんというらしい。

さっきの女の子が父さんに頬ずり?をしていてその様子を傍観している草薙さん。


(この状況、誰か説明してよぉ!?)


また部屋の扉が開く音がした。自然とそこに目が行った。


「はぁ、またか」


「あ、六条さん」


部屋に来たのはボクをここまで連れてきてくれた六条さんだった。


「社長それとリーダー、いい加減にしてください。ゆうきさんが見てますよ」


「六ちゃん~そんな堅苦しい肩書なんかじゃなくてぇ~気軽にアイちゃんって呼んでいいのに~」


六条さんにリーダーと呼ばれたあの女の子は、ぬるりと流れるように今度は六条さんにすり寄っていった。


「やめてください」


「わわ、六ちゃんそれは痛いヤツ!暴力反対!」


六条さんがリーダーの頭を片手で鷲掴みしていた。


「ふう、まあ役者はそろったな」


一息つきながら乱れた服を直し父さんはそう言った。

一瞬にして場の雰囲気が変わった。そして全員がボクに視線を移した。

空気が自然とボクの姿勢を正していた。


「ですね」


頷きながら六条さんは一枚の紙をボクに渡す。


そこには"契約書"の文字が書かれていた。


「ねえ父さん。これって?」


少し真剣そうな表情で、でもやっぱりいつもいたずら笑顔で


「つまりはあれだ、ゆうき。お前、Vtuberにならないか?」


 



 この時ボクの新しい歯車が動き出した。

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