第2話 転機は突然に

 ゲームとか漫画とかではよくある話の、いつも親に優秀な兄姉に比べられて無関心、虐げられる弟妹の話。


 たまたまその弟がボクだったんだ。


 一様言っておくけど、姉さんとの仲は別に悪くはない。これはほんと。


 毎日一緒にご飯をつくって、勉強して、ゲームして、寝る。

 の姉弟仲。


 でもそれを親が許さなかった。


 たまたま機嫌が悪かった母さんに一緒に勉強をしていたところを見られて

「なんで一緒に勉強してるの!?あんたのバカがうつるでしょ!?」


 うーむ、理不尽。


 家では母さんが一番強い。父さんはいつも母さんの意見に従っている感じ。

 

 そのまま荷物をまとめさせられて家を追い出された。

 で、今ボクはどこにいるかというと...




 ◇


「どうしよう...」


 ボクは街の中央にある駅前のベンチに座っていた。


 別に、どこか遠い場所に行くつもりはなくて、気が付いたらここにいた。


(このまま、どこかに行ってもいいかもね)


 そんなことを思っているとふと声をかけられた。


「きみきみ!何か困りごと~?」


 金髪で派手な格好をしている男の人達に話しかけられた。


「ねね、見たところ暇そうだしさ、俺たちと一緒に遊びに行かない??」

「いいね~」


 なんか、この人たち勝手に話を進めている!


(こ、こわいっ!?)


 何を隠そうボクは人見知りで怖がりなのだ!それはもう、自分で言えちゃうぐらいに。


「あ、あの」


 断ろうにも声が震えて細くなる


「ヒュー、声もかわいいじゃん」

「あたりだな」


 やっぱり怖いっ


 ボクは情けなく後ずさりしてしまう。


「あれ、逃げるの?せっかく親切にしてあげたのにさあ~」


 そういいながらボクの手をつかんできた


「ヒッ」

「なーにそんなに怯えてるのさ~」

「そうだよ、俺たち何もしないってさ」

 ニヤニヤしながらじりじりと近寄ってくる。


 ボクはまた後ろに足を置く。

(ど、どうしよう)


「だーかーら、逃げるなって」

 グイと手を引かれそうになった時、別の方向から手が伸びてきた。


「そこまで」


 別の男の人がボクの手をつかんでる金髪の人の手を止めてくれた。


「は?なに?」


 ギロリと睨む金髪の人だけど、助けてくれたお兄さんは退かなかった。


「目の前で女の子が襲われてたら助けるだろ?それに、そんなことしてるからモテないんだよ」


 そーだそーだ。もっと言ってやれって、ええええ!?!?


「あ、あの、ボクは」


 すぐに否定しようとするけどお兄さんが遮るように言葉をつづけた。


「それに、妹にちょっかい掛けられているのを黙ってみる訳にはいかねえよな?」


(あれ???ボクってお兄さんいたっけ?)

 色々ありすぎて混乱してきた。


「お、おい離せよ!」

「チッ同伴かよ」

 悪態をつきながら去っていく金髪の人達。


「は、はぁ~」


 緊張の糸が切れたみたいでへなへなと座り込みそうになったボクをお兄さんは優しく支えてくれた。


「その場しのぎの為とはいえ、急にあんなことを言ってしまってすまない。大丈夫かい?


「だ、大丈夫です。ありがとうございました」


(ん?)

 何でこの人ボクの名前知ってるの??

「あ、あの、どうして」

「”どうしてボクの名前を知っているの?”だよね」


(え?え?)


「少し場所を変えようか、周りがね」


 そう言われて周りを見てみると、こそこそと見られている様子。


(は、恥ずかしい、、)


「わ、わかりました」



「よし、じゃあ行こうか」





 ◇





 お兄さんに連れられて行ったのは駅前にあるおしゃれな喫茶店



「急にゴメンネ」


 そういいながらお兄さんは名刺を差し出してきた。

 そして目を見開く


「”セカンドプロダクション”って、あの!?Vtuber事務所の!?」


 セカンドプロダクション。最近になって有名になってきた事務所で大物Vtuberが何人も所属している。


「ああ、そうだよ」


 コーヒーを飲みながら軽く返事をしたお兄さん。


「あの、えっと、」


「大丈夫。ゆっくりでいいよ」


 またテンパっているボクを優しい声音で落ち着かせてくれる。


「さ、さっきは助けてくれてありがとうございます!」


 焦りながらボクは頭を下げる。


「大丈夫だよ。俺は別に大したことはしてないからね」


「改めて、水瀬ゆうきみなせゆうきです。」


「俺は、六条弘人ろくじょうひろと。それより、よくうちの事務所を知ってたね」


「Vtuberは大好きなんで!」


そう、ボクはかなりVが好きだ。どのくらいかって聞かれると難しいけど、この事務所ができた頃から見ているくらいかな?


「六条さんは何でボクの名前を知ってたんです?」


「ああ、それはね、君のお父さんから聞いたんだよ」

(え?父さん?)

「はは、混乱してる混乱してる」


六条さんは吹くように小さく笑った


「とりあえず、りんとさんに電話してみて?そうすればわかるでしょ?」


「わ、わかりました」


言われるように、父さんに電話をかけてみる。


「も、もしもし父さん?」


『お、ゆうきか』


4コールもしないうちに出てくれた父さん。


『何かあったのか?って聞いた方が良いんだけど、六条と会ったんだな』


「う、うん。今一緒にいるよ」


『じゃあ、六条にこっちに来るように伝えてくれ。ああ、ゆうきも来てくれよ!それじゃ』


「え、ちょっと!?」


そのまま電話は切れてしまった。


(何が何だかさっぱりわからないよ...)


「どうだった?」


とりあえずボクは六条さんにさっき話したことを伝えることにした。


「なるほど、大体わかったよ。まったく、りんさんの悪い癖だ。それじゃあ向かいますかね」


「わ、わかりました。お会計しないと...」


ボクが財布を出そうと鞄を開けると六条さんがボクの腕を止めた。


「ここは俺が払うよ」


そういいながら、六条さんはサラリとお会計を済ませた。


「あ、すいません。あのボクの分は」


「だいじょーぶ、お兄さんが奢ってあげるよ」


ニコッと口角を上げながらかっこよく六条さんは言った。


「それよりも、りんとさんのところに行こうか。ここから近いから大丈夫だよ」


こっちこっちと、手招きする六条さんの後に続いてボクはオフィス街に向かった。






 六条さんに連れてこられたのはガタイの良い警備員さんが立っているビル。


「...っ!どうぞ」


警備員さんは六条さんを見るとすぐに扉を開けた。なるほどこれが顔パスってやつなのかな?


「ゆうきくん、こっち」


「は、はい」


エントランスに入るとよくネットとかで見る綺麗な都会の会社って感じの空間が広がっていた。


「エレベーターこっちね」


六条さんに案内されるままにエレベーターに乗る。


そしてボクが通されたのはこの部屋。


「.......」


あえて言おう。ボクの緊張度合いはMAXであると。


(だってさぁ、だってさぁ!いきなり凄そうな部屋に通されたと思ったら六条さんすぐにどこかに行っちゃったし...)

因みにどんな部屋かって言うと、なんか学校の理事長室みたいな部屋だ。


がちがちに緊張していたからどのくらい時間がたったのかわからないけど、部屋の扉が開いた。


「....っ!」


反射的に席を立つ。


ゆっくりと扉が開いていく。

【社長】と書かれた机にその人は座り、ニカッと笑って声をかけてきた。

ボクはその人を見て固まった。


「やあ」


「あ?え!」


私服姿の父さんだった。

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