ロシアでは出る杭はいつの間にか消えている

その日の朝、俺はいつものようにコーヒーを片手に英字新聞を眺めていた。勘違いしないで欲しいが、日本在住で生粋の日本人である俺が英字新聞を読むのはカッコつけるためではなく英会話講師という職業柄、常に英語に触れておく必要があるからだ。ただし、コーヒーはカッコつけるために飲んでいる。


"RUSSIA OFFICIALLY BANS BEING ANIMALS"

(ロシア政府、国民が動物になることを公式に禁止)


――モスクワで自身を「鷹」と主張する男が現れ、アパートの3階から飛び降りる事件が発生した。男性は泥酔しており、アパートの窓際で「俺は鷹だ」と叫んでオカリナを演奏した後に両手を広げて落下した。近隣住民の通報により、男性はすぐさま救急車で病院へ運ばれたが特に命に別状はないという。これを受けてロシア当局では「動物になることを禁止する声明」を出しており、専門家の間では「先日のアメリカでの犬男事件を受けて、影響が広がることを危惧したもの」との見方が強い。


「影響って、なんの影響だよ」という失笑が込み上げてきた。同じような事件の二番煎じは生徒の受けも悪い。たまたまテキサスのニュースを知っていた男性が酔っ払って真似をしただけで、本気で犬を演じていた男と比べるとインパクトも薄い気がする。何にしても、ロシアの対応の速さはさすがと言える。


新聞を読みながら苦笑いをしていると、妻が心配そうにこっちを見ている。おっと、そうか。もう出勤の時間だ。ネクタイをしめて、スーツに袖を通した。



「いってらっしゃい、気をつけて」



「いってきます」

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LGBTQC 俺の妻が猫になるまでの物語 のんちゃん @mkbn0011

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