LGBTQC 俺の妻が猫になるまでの物語

のんちゃん

イカれた思想はだいたいアメリカからやってくる

その日の朝、俺はいつものようにコーヒーを片手に英字新聞を眺めていた。勘違いしないで欲しいが、日本在住で生粋の日本人である俺が英字新聞を読むのはカッコつけるためではなく英会話講師という職業柄、常に英語に触れておく必要があるからだ。ただし、コーヒーはカッコつけるために飲んでいる。


"A NAKED MAN CLAIMING BEING A DOG GETS ARRESTED AFTER PROWLING"

(自分は犬であると主張する男性、全裸で街を徘徊し逮捕)


――テキサス州にある町で日中、四足歩行する全裸の男がケバブスタンドを襲撃。ケバブを奪おうとするも店主の反撃にあい逃走。駆け付けた警官隊に吠えて威嚇しながら15分間逃走した末に麻酔銃を打ち込まれて捕獲された。男性はテキサス在住の25歳無職、トーマス・ローリー。警察関係者によるとトーマスはオンラインの動物愛護団体に所属しており、自身のことを「犬である」と主張しているという。


これだから英字新聞を読むのはやめられない。海外、特にアメリカには日本では考えられない子供じみた主張を本気で通そうとする人達がいる。さすが、自由の国と言うべきか。英会話講師としては、こういうインパクトの強い話題を豊富にインプットしておくのが大切なのだ。50分間、生徒と英語で話し続けるにはそれだけのレパートリーが求められるのだ。これで今日のレッスンも盛り上がること間違いなしだ。


新聞を読みながらニヤニヤしていると、妻が心配そうにこっちを見ている。おっと、そうか。もう出勤の時間だ。ネクタイをしめて、スーツに袖を通した。


「いってらっしゃい、気をつけて」


「いってきます」

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