幕間 かつての夢も今は遠く。
仕事を終えて、一人だけでご飯と食べて、それから風呂に入って床に就いた。眠りにつくと久々に中学二年の夏を夢に見た。
夏の公式戦の第三回戦。第四クォーター終盤。点差のない熱戦だった。コートにいる人間は誰もが熱くなっていた。
ゴール正面で受け取ったボール。時間はもうほとんど残されていない。相手のセンターのマークは外れていなかったけれど、強引にでも行くしかなかった。
選択したプレイは全神経を注いだドライブからのレイアップ。自分が磨き続けた最も自信のある武器だった。
姿勢を下げトップスピードに乗る。マークマンの右横をかいくぐった。誰も視界に入らないゴール前、右脚に渾身の力を乗せて俺は飛んだ。リングに向けてボールを持った右手を伸ばした。指から放たれたボールをずっと目で追っていた。
だから、自分の横に迫ってくる影に気付けなかったのだ。
ゴール下での接触。バスケをやっていればそれ自体はよくあることだった。けれど問題は、あの時の俺のプレイだ。
何もかも強引で、シュート以外のことに割ける神経は残っていなかった。そんな状態では当然、崩れた体制を立て直すことはできない。
着地した時、右膝が悲鳴を上げた。感じたことのない痛みだった。
得点は入り、試合には勝った。結果に湧いて、喜ぶチームメイトたちとは対照的に、自分だけこれ以上ないぐらいに冷めていった。全身の血液を一気に引き抜かれているんじゃないかと錯覚するぐらいに。
試合後に向かった病院で、膝の靭帯を損傷していることを知らされた。選手生命を断たれかねない致命的な怪我だ。医者からは再び全力でプレイするためには手術が必要だと言われたけれど、そんな余裕が家にないことを俺はよく知っていた。
手術をしない方法で治療をしていくことに決めた。
部活をやる残りの一年をリハビリに充てることになった。
歯を食いしばってチーム練習を見て、その横でリハビリをひたすら続ける日々を送る。
それでもコートでの動きは一年前の自分を超えることはない。それどころか元に戻ることはない。思い通りにできない歯痒さが、ずっと付きまとっていた。そして、僕がもう一度コートに立つことはできなかった。
それから、僕は中学を卒業して高校生になった。バスケを続ける選択肢は選べなかった。叶わない夢を追い続ける苦しさを、嫌というほど味わったからだ。あんな思いをしながら続けられる精神力を僕は持ち合わせていなかった。
夢も、目標も全部投げ捨てて流れる日々。それはとてもゆっくりと流れて、とにかく重く、ただただ苦痛だった。選手を諦めても尚、怪我は僕を苦しめるのかと己の右膝が憎らしくてたまらなくなっていた。
もうどうしたらいいのかわからない。そんな日々は半年ほど続いた。
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