エピローグ
あのあと――
ボクとカルディアさんはどうにかこうにか屋敷から脱出することができた。今は、王国の外れにある大森林の奥、エルフの隠れ里に身を寄せようかというところで、
「ここなら絶対安全だから」
「ちょっと待ってください」
立ち去ろうとするカルディアさんをボクは呼び止めた。
「カルディアさんはどこへ行くんですか?」
「……決めてない」
「じゃあここに
「居れるわけないよ。私がやらなきゃいけなかったのにシオンの手を汚させた。結局、閣下も守れず、シオンの心も傷つけた」
「元々父上の依頼が無理難題だったんです。それに」
それに、
「おねーちゃんに好きな人を殺させるわけにはいかないじゃないですか」
「っ!?」
カルディアさんが珍しく驚いた顔をした。
いや、珍しくってほどじゃないか。
カルディアさんはよくよく見れば結構表情豊かな人だ。
「私のこと、覚えてたの?」
「思い出しました。父上を見るカルディアさんの目を見た時に」
「~っ!」
頬どころか首も耳も真っ赤にして俯いてしまった。
ずっと年上なのに妙に可愛らしいところのある彼女に、ボクは言った。
「気にすることないですよ。あの時父上は死んでいました。身体が動いてただけで、アレはゾンビでした。父上なんかじゃない。だからボクはカルディアさんが思うほど傷ついてないですよ」
我ながらなかなかの詭弁だな、と思う。
でもいいのだ。
「……でも」
「あーもう! じゃあこうしましょう! カルディアさんはボクの護衛になってください」
「え? 護衛って、シオン、キミはここにいれば安全なんだよ? 護衛なんかいらないよ?」
カルディアさんはどうなるんですか。
それに、
「安全な場所で世界が終わるのを待ってても仕方ないでしょう。僕はここでじっとしてるつもりなんかありませんよ」
「何をする、つもりなの?」
「このゾンビ
「本気なの?」
「冗談でこんなこと言いませんよ。だから一緒に来てください」
できるとは思っていない。
カルディアさんをひとりにしておくのが嫌なだけだ。
長い長い沈黙のあとで、カルディアさんは大きく一度頷いた。
「笑いましたね、カルディアさん」
「そう?」
「笑ってる方がいいですよ」
「何ばかなこと言ってるの」
「本当ですって、おねーちゃん」
「ばか」
ボクたちの、ゾンビだらけの世界を往く旅路は今ここ場所からスタートするのだ。
(了)
ゾンビ感染蔓延拡大中 ~仲間が全滅してひとりになったボクは暗殺者のお姉さんに連れられて実家に帰ることになりました~ 江田・K @kouda-kei
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