ミラクルドライヤー後編
日が昇り、朝になる。昨日はひどい目にあったとハロルドは思い返す。
(ドライヤーを使って上機嫌に浸っていたら、辺りは汗のような臭いの湿気に包まれたんだよな。A湖は氾濫するし。一体どうなってんだよ。避難所のマオウ ヒデトシの野郎には……。いや止めておこう。ネガティブは疲れる)
日に当たろうと身体を起こし、外に出るとガヤガヤと煩いことに気づく。ハロルドと同じように逃げてきた避難民達がA湖を見て、何やら騒いでいるようだ。
「何あれぇ!汚い。私達、このままじゃ山から降りれないじゃん」
「おい!昨日よりも水嵩が上がってないか?!」
確かに上がっている。眠る前に見たときは、家の影が微かに見えていたはずだ。なのに今ではその跡形もなかった。
「おいおい!マジで何なんだよッ!!!ふざけんなよ!これは夢だよな」
ドライヤーを手に入れてからというもの、異常なことが立て続けに起こり続ける。夢だ、そうに違いないと現実逃避する。
頭を抱えていると、湖からプクプクと泡が浮かび上がる。
プク……プクプク……ブクブクブク!
次第にプクプクはブクブクに変わり、暗い水の影から何処か見覚えがあるようなゴミ、それらが信じられないほど次々と出てくる。ゴミが増えてから、水嵩がどんどん上がり、避難所の近くで止まる。
………
……………
…………………
しばらく時間だけが進み、どうすることも出来ずにいた。空を見ていると、赤いヘリが近づいてくるのがわかる。救助隊のヘリだ。
「救助隊が助けに来たぞ!」
ハロルドは大声で叫び。ヘリが降りるであろう広いところに可能な限り近づく。自分が一番に救助されるためにだ。ハロルドの目論見通りに一番に救助され、空に飛び上がる。
空から地上をみる。ハロルド達が住んでたところは標高が低いらしく、避難所がある山を中心に巨大なドーナッツのような形をしてゴミの湖が作られていた。
「凄いだろ。人類がここまでゴミを作り出したと考えると、いつか世界中がこうなるんじゃねえかって思っちまう。本当に勘弁してほしい」
隊員の一人が驚くハロルドに話しかける。働き詰めなのか顔色が悪そうだ。
「いきなり何だよオッサン」
「おっさんじゃない。まだ45歳だ」
「十分オッサンだ」
「はは!」
素っ気なくツッコむと面白そうに笑い出す。精神的に疲れているのか誰かと話したいのかもしれない。
ハロルドはドライヤーでこの全てを吸い込めば終わるのにと、ゴミ湖を見て、電池切れのミラクルドライヤーを強く握る。
昨日の吸い込み具合を考える。一度に吸い込める量に限りがあるのは実証済みであり、ゴミ湖すべてを吸い込むには時間がかかると分析する。頑張れば出来る気がした。
「なあ、坊主、あれが何かわかるか?」
「あ?んなもん、ただのゴミ湖だろ」
そう答えると隊員は苦そうな表情になる。
「実はな昨日、あの湖が調査されたんだよ。そしたら人から出る汗だったんだよ。またDNAが検出されたんだ」
不思議なことを言う隊員に、あり得ないと顔に出す。
「汗のDNA情報と成分を調べたところ、男性でちょうど坊主の年頃の特徴が出てきた話だ」
「はあ、そんなもん言われても信じられる訳がねえよ」
「まあな、俺もそうだ。そんな魔法みたいな出来事が信じられるわけがねえよな」
ハロルドは顔をしかめる。魔法と聞いて例のドライヤーが気になってしまう。
「まあ、他にも、あそこに溜まってるゴミはな、どうやら複製されているようなんだ」
汗、臭い、ゴミ……これらの特徴を思い浮かべ、ハロルドは真っ青になる。
(これ、ドライヤーが吸い取ったものじゃね?!)
それからと言うものハロルドの中でパズルのピースが嵌められるようにすべてが繋がっていく。
まず初めに、試しにとハロルドは汗を吸い取った。体臭を吸い取った。次に周囲のゴミを吸い取った。
今の状況は、大量の汗、どこに行っても辺りに漂う体臭、大量の複製されたようなゴミ。そう、増えているのだ。吸い取ったものが。ハロルドは嫌な予感がした。これから起こる結末に……。
思考を巡らせているとハロルドとは別に救助された人が叫ぶ。
「おい!また湖から何か浮かび上がってくるぞ!」
ハロルドも湖を見る。ゴミの隙間から人型の影がところどころに増えているのだ。これも見覚えがある。
「何だあれは人間……か?」
「……」
ラルクと親父だった。大量に湧いた二人はゴミを掻き分けながら泳ぎ、時間を掛け陸へ上がっていく。持っていたスマホを陸の方へズームインしてみると何故か、早速、銃撃戦が始まっている。
ヘリが送り先の新しい避難所へ着陸する。すると、隊員から逃げるように近くのコンビニへ直行し、電池を買う。
このままだと大量のラルク&親父にボコされる。それを防ぐためにミラクルドライヤーを再び使えるようにしようと考えたのだった。
ミラクルドライヤーのスイッチを押す。コンビニで売っていた、持ち運びやすい護身用の防水スタンガンを手にして。
「指定、防水スタンガンとハロルド」
シュゥゥゥゥ
ハロルドとスタンガンは吸い取られていく。そして、気づくと息苦しく、暗い水中へ移動していた。
ゴミをかき分け酸素を吸いに顔を出す。するとスタンガンを持った大量の自分がいた。
「「成功だっ!」」
無数のハロルド達は陸にいるラルクと親父へ、スタンガンを持ってとにかく泳ぐ。動きも息が合い、まるでアーティスティックスイミングのようにシンクロする。しかし、その場をゴミとハロルド自身の異臭が台無しにしている。
この時、ハロルドには誤算があった。ハロルドは持久力が無いのだ。そんな自分が湖の中にいるとなるとどうなるか。
「「た……助け」」
溺れてしまう。ハロルド達は浮かんでいるゴミを浮き輪代わりにしようとするが、浮力の大きいゴミが一つもなく沈んでしまう。
「失敗作だったようじゃな。ごめんよ少年。すぐにもとに戻してあげよう。ミラクルドライヤーよ、無かったことになあれ!」
絶望した頃、どこかで聞いたことのある、老婆の声が聞こえ、ハロルドは意識を失う。
次に目を覚ましたときには、ミラクルドライヤーは無かったことになり、その痕跡や、すべての人の記憶からも消え去っていたのであった。
まるで夢であったかのように……
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ミラクルドライヤー 勾玉わんこ @MagatamaWanko
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