ミラクルドライヤー

勾玉わんこ

ミラクルドライヤー前編

 ミラクルドライヤー。それは熱風を吹き付け、髪を乾かす、従来のドライヤーとはまた違うもの。持ち主が"指定したものを吸い込む"ドライヤーだ。



「ハロルド、これが例のドライヤーか?」


「へい、そうです。ラルフ兄貴。使ってみてください」



 泥にまみれた汚い服装の二人は、誰もいない廃墟でミラクルドライヤーを眺める。見た目は普通のドライヤーにそっくりのワイヤレスドライヤー。



 これを手に入れたのは、ほんの数時間前。魔女のような格好をした怪しげなおばさんが、ハロルドに『このミラクルドライヤーを使ってみてくれないか?これは指定したものを吸い込むことのできるドライヤーさ。使った後で感想が欲しい』と声をかけられたのだ。




 興味のなかったハロルドは当然、断った。しかし、気づけばドライヤーがカバンに入れられていた。気まぐれで汗まみれの頭を乾かそうとする。しかし、何も変化はない。とんだ不良品を押し付けられてしまったと思っていると……。



「吸収するものを指定してください。何でも吸い込みます」


「うわっ!喋りやがった……」



 急な音声がドライヤーから流れ、驚いてしまう。吸収するものを指定しろと言われ、いやなんで指定するんだよ。とツッコミつつも、頭皮の汗と口に出す。すると空気と共に汗が吸い込まれたのだ。一瞬で。



「もう乾いたぞ。サラサラだ」



 ハロルドはドライヤーの性能に興奮し、更に試してみる。



「臭いを吸い取れ」



 キュイーン。ドライヤーは臭いを吸い取る



「おう。臭わない!他にも……あれ……確か何でも吸い込むんだったよな」



 ドライヤーの発言を思い出す。『吸収するものを指定してください。何でも吸い込みます』と言った。ハロルドは試しにと道端にあるゴミを指定する。



 キュイーン!!!ガガガ……シュポン!



 とてつもない吸引力にも関わらず周囲のゴミが吸い込まれていく。吸引口にまでやってきたゴミは小さく押し縮めながらも順調に奥へ消えていく。やがてゴミは道端からなくなり、辺りは快適な場となる。



「こんなことも出来るのか。良いもの手に入れたな。次は何に使おうか。あっそうだ」




 日頃、異臭+汗まみれの同じ不良であるラルフに使ってみたいと。ハロルド自身、ラルフの存在に鬱憤を抱えていたので、ちょうどよいと思い、呼び寄せたのだ。取り敢えず、ラルフが日頃悩みの体臭ケアが出来るドライヤーを持ってきたと呼び出す。



「ハロルド、これが例のドライヤーか?」


「へい、そうです。ラルフ兄貴。使ってみてください」


「おう。もし、嘘で呼び出したのなら、分かってるだろうな」


「はい……」



 ラルフ自身は胡散臭かった。何で俺が下っ端に呼び出されなければいけないのかと苛立ちがあった。まあ奪い取って、売ってしまえばいいかと企み、この場に来たのだ。それがハロルドの策だと知らずに。



「俺が乾かしますよ。後ろ向いてください」


「おう、サンキュー」



 礼を言い、ラルフはハロルドに背を向ける。



シュウウウ〜〜〜


「おっ?!何だこれは!!!マジで汗も臭いも消えていくじゃねえか」


「指定、ラルフを吸い込め」



 ハロルドは"指定、ラルフを吸い込め"と言ってしまう。ミラクルドライヤーは聞き届けたと返すように勢いが増していく。すると



「うおっお。スゲェ吸引力が?!あ……吸い込まれて。ヤベェ……助け……ろ」


「……」



 ラルフの身体は、勢いよくドライヤーに吸い込まれていく。スイッチをオフにしようとするも止まらない。そうこうしている内に足までもがドライヤーの口元へ、スポンと気の抜ける音とともに吸い込まれてしまった。



 そしてミラクルドライヤーは何事もないように床に落ちる。



「ふふふ。あっはっはっは!あの天下の兄貴もこんな無様に消えるとはな」



 ハロルドはしてやったりといった顔をする。長年の邪魔であったやつを消すことができたのだから。



「そう言えば、吸い込まれたものはどうなるんだ。まあいいか。取り敢えず、家に帰るか」





 家に帰ると大音量でテレビがつけっぱになっている。親父だ。ハロルドの親父はいつも家で、お酒を飲んでダラダラしているヒモ男であった。最近では、窃盗でもしてるとの噂もある。そんな父親に怒声を浴びせる。



「うっせんだよ!!!音を下げやがれ」



 ハロルドは父親からリモコンを奪い取り、音を下げる。いつもなら反抗出来ないが、今日は違う。ハロルドはドライヤーを構える。



「あ?息子の分際で大黒柱に楯突くのか?」


「大黒柱?ヘッ。稼ぎもしないのに大黒柱を気取ってんじゃねえよ」



 スイッチをオンにする。



「指定!親父だ」


「何だそれは……あっ何?!吸い込まれて。やめろ」



 自称大黒柱は吸い込まれていく。シュポン。吸い込み終わり、ドライヤーの電源を消してテレビの音だけが響く。実に呆気なかった。



「ふう!静かになった。これで心置きなく家でゆったり出来る」



 静まり返った部屋のソファーに座り適当にテレビをまわす。



『つぎのニュースです。突如、〇〇県に位置するA湖で大氾濫が起きている模様。付近にいる方は直ちに避難を……バチン』



 ニュースキャスターが警告を出した途端、突然部屋のブレーカーが落ち、テレビや灯りが消えてしまう。A湖とはハロルドの家の直ぐ側の湖だ。



「近くじゃねえか!逃げねえと」



 ドライヤーを持って、靴をはいて大急ぎで外に出る。太陽が沈みかけ、電灯に電気が通っていないからか、辺りは薄暗くなっていた。



 さらに避難警報がうるさい。そして、妙に"湿気が多く汗のように臭かった"。



「クッサァァァ!!!!!!何だよこの異臭ッ」




 ハロルドは鼻を手で抑え、周りの誘導に従い、避難所へ向かう。外にいる他の人も同様に鼻を抑えて、避難所へ駆け寄る。




 ここは山になっており、水害が起こるごとに使用される場所だ。




「慌てないで!順番に!ぬかさないで!走らずに中へ入ってください」



 大きな声で避難誘導する人が、迫りよってくる人達へ指示をする。ハロルドは知ったことかよと人の行列を割り込み、なんとか中へ入ることができた。



 この辺りまで来ると例の臭いも薄くなってきており、少し気が楽になる。しかし、安心していられたのはつかの間、後ろから肩を叩かれる。




「君!割り込みは駄目だぞ!ちょっとついてきなさい」


「は?嫌だね」



 声をかけたのは、ここの避難誘導をしていた人の一人であった。ハロルドは掴まれた肩を振りほどこうとするが、振りほどけず、小さな小屋に連れ込まれる。



「いきなり連れ込んで悪いね。だけど見逃すわけにはいかないんだ。割り込んだ人をね」


「そんなこといいから、はなせ!」


「私の名はマオウ スミスだ。よろしく頼む」


「話し聞け!」



 いきなり人を連れ込み、こっちの話を聞かないマオウにハロルドは苛立ちを覚える。ドライヤーを使おうとオンにする。起動したはいいもののすぐに、動かなくなる。電池切れのようだ。



 先程、腕を振り払えなかったため、力ではどうにもならないと悟り、大人しく聞くことにする。面倒くさいことになったと思い、今日も1日が終わるのだった。




_______________________

【作者より】

 こんにちは。こちらで初の投稿させていただいた勾玉わんこでございます。


 今回の小説は、部屋にあったドライヤーとブラックホールをミックスしたら出来た作品となっています。


 初めは、吸い込むならドライヤーではなく掃除機じゃね!と思い、作品を作るのに悩むことになりました。


 しかし、持ち運べるものにしたいと考え、ドライヤーという形に収まりました。



 さてここからは次回の話になります。こうして前編が出来、実のところもう後編もだいたい出来上がってはいます。


 次に投稿する日は明日辺りになると思うのでよろしくおねがいします

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