第4節 -アイリスプロセス ~虹の彼方に~-
* 1-4-1 *
〈告げる。これは慈悲深き聖母による最後の御言葉である。〉
威厳に満ちた少女の言葉は、国の民全てに〈奇跡〉という名の希望を指し示した。
善と悪。立場によって如何様にも変わるこの概念に本来“絶対的な悪”など存在しない。
だが、この島で起きた事件は違った。
正確に言おう。“私達が意図的に引き起こした事件”は違った。
国家薬物汚染。私達は危険薬物のばら撒きによってひとつの国の未来を絶とうとしたのだから。
それを1人の少女が、神の裁きという奇跡の力を以って解決しようとした事件である。
例えるならば、完全なる善による完全なる悪の討滅。
振り返り、楽しい思い出とは言い難い絶対的な善と絶対的な悪の対立による小話だ。
過ぎ去りし日、西暦2036年10月13日。
ミクロネシア連邦 ポーンペイ州 テムウェン島のナンマドール遺跡を埋め尽くす数万の大衆を前に、彼女は言った。
〈長きに渡り我らを苦しめた厄災は、今日この日をもって終焉を迎えましょう。ステラ・マリス-海の星の聖母-。空を見よ、幾千の星の煌めきは汝らを導く希望の光である。神が我らに与えた慈悲の光である。〉
2つの魂を内包する1人の少女によって、神の威光が示される。
罪人は神威の雷にその身を焦がすことで重ねた罪に対する報いを頂く。
あの日、人々は彼女の言葉と奇跡に希望の灯を見た。
力なき者を救わんとする、神の言の葉の代弁者に彼の国の未来を見た。
Ave Maris Stella〈めでたし、海の星〉
だが、実際のところはどうだろうか。
今でも私は思う。
Stella Maris〈海の星の聖母〉
Stella Malice〈悪意で満ちた星〉
“目に見えるものだけが全てではない”
かつて、彼女が語った〈奇跡〉とは、一体どちらを指し示す言葉であったのだろう、と。
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