俺たちにしか守れない
長老たちが何を話していたのかは、知ってしまえばあっけなく、そしてひどく恐ろしいものだった。彼らは子どもたちを集会所へと呼び出すと、真剣な顔でこう話した。
――我々カイグの民は、いかなる侵略行為に対しても、徹底抗戦をおこなう。これは我々の名誉を守るため、そして「我々にしか守れぬものを守る」ためである。――
……集会所を出た後、どこをどう通ったのか、アスは覚えていない。いつの間にか、彼は綺麗な小川のほとりに座り、ぼうっと満天の星空を見上げていた。
「おぉ、アス。こんなところにいたのか」
ハルが隣にやって来ても、彼はぼうっと流れる雲を見上げていた。夜の風を知らせる虫が、ちちちちちと音を鳴らす。
「長老の話、どうだったよ? ま、そんな大したことなかっただろ」
そんなことない。アスは涙が出そうになって、思わず目を伏せる。ここで泣いたら、わんわんと泣き喚いたら、またハルに子ども扱いされてしまう。
「……いいか、アス。俺たちには、俺たちにしかないものがある。だからどんなに辛くても、俺たちはそれを守らなくちゃいけないんだ」
「……守らなきゃいけないものって、なに?」
「そりゃあ、いっぱいあるぜ。例えば、俺たちは文字を書かないし、絵も描かない。けど俺たちは、面白い話をたくさん知っているし、上手な狩りの仕方も知っている。そういうのは、他の奴らが適当に真似してみても駄目なんだ。カイグにしか守れない、大切な宝物なんだ」
ハルはアスの髪を撫で、優しくにっこりと微笑んだ。アスはじっと下を向き、涙が零れそうになるのを堪える。
「……それって、命よりも大切なもの? ハルよりもペゥルよりも、ずっとずっと大切なものなの?」
我慢しようとしても、肩が小さく震えてしまう。アスはハルに飛びついて、彼の胸に顔を沈めた。一つ、また一つと、涙が頬を伝う。
「泣くなよ、アス。泣くなって……」
ハルの青い瞳にも、大粒の雫が浮かんでいる。彼は黒い髪を垂らして、優しくアスの背中を撫でた。
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