どうにもならない

 捕虜のカイグ人は、まるで幽霊のように大人しい。マーレはそう思いながら、今日も味の薄いスープとパンを持って、古びた小屋の扉を叩いた。

「……本当に、何も喋らないな」

 マーレの言葉は訛りが強い。この話し方は、貧しい地域でよく見られる。

「おまえ、文字は書けるのか? 何でもいいから、少し書いてみろ」

 ざらざらとした床をなぞり、マーレは「うみ」と「ほし」を書いた。少年はじっと見つめるだけで、全く身じろぎもしない。

「団長、知らないんですか? カイグのやつらは、文字を持たないんですよ」

「団長もお人好しですねー。呑気に捕虜とお喋りですか?」

 ……いつの間にか、嫌味な部下が小屋に来ていた。彼らはいつも、マーレの教養のなさを馬鹿にしてくる。マーレも最早、仕方がないと諦めていた。身分が低さと貧しさは、どうすることもできないからだ。

「……」

 少年の瞳には、少し俯いたマーレの横顔が見えた。滑らかな黒髪が、さらさらと彼の頬を流れた。

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