カイグの少年

 マーレが自軍に戻ったとき、カイグの少年は冷たい床に座り込み、じっと壁を見つめていた。今にも壊れそうな小屋の中で、乱暴に足を組んでいる。

「飯だ、食え」

 マーレは小さく戸を開けると、地面の上に黒パンを放った。彼は団長でありながらも、この手の雑用をやらされていた。彼が団長になれた理由はたった一つ、上に実力を認められたからだ。この世界には、彼を気に入らない者が大勢いる。

「……」

 少年は何も言わない。当然だ。カイグの言葉が分かるのは、殺されたカイグの人間だけだ。何を言おうが喚こうが、誰も彼の言葉を理解できない。

「何日もすれば、引き揚げの指示が出る。……などと言ったところで、おまえには分からないか」

 にゅっと伸びた小さな手が、砂の混じった黒パンを掴む。マーレは彼がパンを食べる様子を、特に意味もなく見守っていた。部下の下に帰るのは、いつだって気が滅入る。彼らの敬意は、どうせ上辺だけだ。

「おまえも随分と可哀想だ。抵抗さえしなければ、それなりの譲歩をしたんだが」

 少年はじっと、マーレの青い瞳を見つめた。彼の目は、深い悲しみの褪せた色をしていた。

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