彼らは死なず、ただ消え去るのみ
中田もな
第十三帝国軍
主に弓術を得意とする第十三帝国軍は、西部一帯の征服を終えた直後、たった一人の少年と出会った。擦れた民族衣装を身に着けた、血まみれの子ども。彼はぽつんと佇んだ木の陰で、じっとこちらを睨んでいた。
「生き残りがいるなんて、驚きましたね。どうしますか、団長?」
部下に問われたマーレは、伸びた髪を風に流し、生き残りを捉えるように命じた。少年は逃げも隠れもせずに、大人しく彼らに捕まった。
「我々の仕事は征服だが、学者たちには別の仕事がある。どうやら彼らは、残された文化を拾い集めて、暇つぶしの道具にしたいらしい」
「はぁ、そうですか。上が『徹底的に潰せ』とか言うもんですから、カイグ民族は抹殺するもんだと思ってましたよ」
「仕方がない。軍人と学者の意見は、纏めようがないからな」
マーレは黒い髪を結び直し、何の抵抗もしないカイグの少年を眺めた。煤け色の髪に、濡れたように黒い瞳。褐色の肌は汗に溺れ、赤い頬は熱を帯びている。彼は帝国の人間と似たような姿をしていたが、目に見えない違いはいくらでもあった。
「とりあえずこいつは、適当な小屋にでも入れる。国から引き揚げの指示が出るまで、飯だけ与えて生かしておく」
抵抗の激しかったこの地域も、殺してしまえば何も残らない。大人しく帝国の指示に従っていれば、死ぬことも滅ぶこともなかったのだ。国からの恩恵を授かったマーレには、彼らが何を想って戦ったのか、ほとんど理解することができなかった。
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