第36話 ロリがお見舞いに来ると嬉しいよね
「本っ当に骨折れてねえのか?」
「全然全然、打撲は酷いけど明日には退院できるってさ」
「武美から鉄骨の下敷きになったって聞いたけど」
「無事で良かったね」
武美に続き、鈴音と静葉も胸を撫で下ろし『じゃあまた明日』と帰っていく。
ちなみに皆人がこんな軽傷で済んでいるのはユイが家からヒーリングガンという、どんな傷でも直すビームを出す銃を持ってきたおかげだ。
無傷では不自然だが、入院が長引かないよう、折れた骨や酷い内出血などは全て完治させておいた。
もっとも一酸化中毒で倒れた武美がなんの治療も無く救急車の中で普通に目を覚ましたのには、皆人もユイも驚かされた。
本当に、どこまでもデタラメな女である。
友人達よりも早く帰った薄情な両親もいない病室は皆人とユイしかいない。
すると、皆人はベッドのまくら元に小さな紙袋が置いているのを見つける。
夕日に染まりながら窓から帰る武美達を見下ろすユイに隠れて中身を開くと、静葉のメモと皆人が選んだある物が入っていた。
「おや? それはなんですかおじ様?」
ベッドに乗って、気まずそうな顔の皆人へ詰め寄るユイ。
できれば隠しておきたかったのだが、皆人は観念したように仕方ないと紙袋の中の物を取り出した。
「できれば誕生日に渡したかったんだけどな」
チリン
と綺麗な音で鳴ったソレは首飾りだった。
赤いチェーンの先に、黄色い猫の形をした鈴がついている。
静葉には子供っぽいと言われたが、いつもユイと一緒にいる皆人がソレがいいと思ったのならと、最後は静葉も賛成してくれた品だ。
目を輝かせるユイに微笑みかける。
「つけていいか?」
「は、はい」
「……似合うよ、ユイ」
ユイは嬉しそうにはしゃぎ、部屋の鏡に自分の姿を映して、色んな角度から見て喜んでいる。
ユイが動くごとにチリンとなる鈴の音が実に心地よい。
そんな、年相応の姿に思わず顔をほころばせて、けれどすぐに顔が冷める。
「なぁユイ、俺さ……実はまだ悩んでいるんだよな」
「何をですか?」
「お前が俺を慕ってくれるのは嬉しいけど、やっぱり俺はお前に何もしていない、全部未来の俺がした事だ、なのに俺がお前の人生を左右していいのかってさ」
思いつめた表情の皆人に、ユイはいつもの冷めた顔で答える。
「おじい様はまた何をバカなことを言っているのですか?」
ぴょこんとベッドに飛び乗る。
「おじい様が私を、ではなく、私がおじい様の人生を左右にしにきたんですよ」
その満開の笑顔は、この時代で見せた中で一番可愛い姿だった。
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