第33話 銃声
パァン!
一発の銃声、それと同時に巨大な爆発音が倉庫を包み込む。
見れば、出口の近くで銃を握り締めたままの黒木が這いずりながら逃げようとしていた。
彼が撃った物、爆発音の方へ視線を移すと、そこにはいくつものドラム缶が置かれていて、それが次々爆発し周囲に燃える液体をまき散らす。
おそらく、黒木が燃料の入ったドラム缶の一つを撃ち抜いたのだろう。
ついに最後の一つまで爆発するドラム缶、そこらじゅうにまき散らされ引火した燃料が木材を焼いて、火はまたたくまに倉庫中へ広がる。
「ちっくしょう、あいつはどんだけバカなんだ!! おい起きろ皆人!」
鉄骨の山から飛び出した手が僅かに反応して、隙間から見える顔が少し動いた。
「たけ……み……?」
「よし! 今すぐ出してやるからな、こんなもの!」
「おにいちゃん!」
「なんであんたがここに!?」
姿を現したユイに気づいて、武美は驚くがユイはすぐに鉄骨に手をかける。
「おにいちゃんがここに行ったって聞いて、それより早くこれどけよ!」
「そうだな、よし行くぞ!」
言って、一本、また一本と重たい鉄骨を持ち上げて投げ飛ばす武美とユイだが、皆人にのしかかる鉄骨が残り四本というところで急に武美の頭がグラつき、鉄骨が持ち上がらなくなる。
完全な一酸化中毒だ。
一般人のイメージでは、火事場で人は焼け死ぬと思われがちだが、実際にはその前に物が燃える際に二酸化炭素と一緒に発生する一酸化炭素中毒により酸欠で失神してしまう。
それでも武美はよく持ったほうだ。
空気中に一酸化炭素が増え続けるこの環境で、消耗した体を押して重たい鉄骨を一人で何本も運んだのだ。
逆に言えば、それほどの重労働をして、大きく何度も息を吸いこんでしまった事が原因とも言えるが、とにかく、最強と称される武美もここでついに力尽きる。
ただ一人、背が低く一酸化炭素をあまり吸わなかったユイだけはまだ動けた。
本来は武美が異常なわけで、本来はユイの身長でもとうの昔に倒れてもいいのだが、そこはまさに神童、彼女の肉体は武美並に超人的だった。
「しかたありません、ここからは私一人で」
「待ってくれユイ」
もう少しで助かるという時に、皆人はなんとか首を起こし、ユイへ訴える。
「俺よりも先に武美を助けてくれ」
「何を言っているのですか」
「いいから頼む、武美は逃げようと思えば逃げられたんだ、なのに俺を助けようとしたせいでこんな目に遭って……これで武美に死なれたら俺は一生後悔する」
「ですが……」
「頼む!」
必死の願いに、ユイは逡巡し、そして頷く。
「わかりました」
長身の武美を背負い、ユイは猛スピードで走り去る。
燃える木材が倒れ、天井が落ちる中、一秒でも早く皆人の元へ帰らねばと、急いで武美を安全な場所まで運ぼうとする。
だが、彼女の小さくなっていく背中を見送る皆人は彼女にもう戻ってこないでくれと願っていた。
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