第31話 覚醒する主人公?


 その光景の凄まじさに、武美と、サイレントスーツを着て姿を隠すユイは息を呑んだ。

 未だかつて、このような皆人を見た事があっただろうか?

 そうここまで……


「ひでぶ! あべし! ぺがふ! ぎゃああああああああストップストップ! お助けぇえええええええええええ! 死んじゃう死んじゃうわぁんごめんなさーい!!」


 ドロップキックで派手にぶっ飛び、近くの床へべちゃりと落ちた皆人の姿に、武美は口角のひくつきが止まらなかった。


「あ、あんたさ……強いんじゃなかったの?」

「え? だってああいうセリフって一生に一度は言ってみたくない? ていうかあのハッタリで退いてくれたらラッキーだし」

「(おじい……さま……)」


 絶対零度の視線を浴びせる武美同様、ユイもあまりの情けなさに出る言葉が無かった。


 ただ姿を隠すユイはどのみち声を出してはいけないのだが……

 壊れたシリアスな空気はなかなか戻らないが、それでも皆人が危険な事には変わりない。


 ユイは真剣にこの状況を改善しようと思案するが、皆人のとの約束を思い出す。

 目の前で無残に殴られ、蹴られ、打ちのめされる皆人はみるみるアザが増え、動きが鈍くなって行く。


 もう、今まで武美に殴られていた時のような、ジョークや日常の一コマで片付けられるレベルから外れている。


「おらおらどうしたよ、強いんだろ?」

「俺ら殺しちゃうんだろう皆人ちゃんよう?」

「も、もちろんだぜ、待ってろよ、今すぐ俺の右手に宿る暗黒龍がてめーらを」

「どうするんだよ?」


 倒れる皆人の右腕に思い切りカカトを下ろして、皆人の悲鳴が倉庫に響く。


「皆人様のお怒りはまだかなぁ?」

「こうすりゃ本気出すか?」


 皆人の髪を掴(つか)み上げて、顔面を思い切りコンクリートの床に叩きつける。

 鼻孔からであろう血が染み込んで床が赤く染まった。


「皆人!」


 必死の叫びに、黒木がたっぷりと嫌味を含んだ笑みを顔に近づける。


「なぁ武美、お前あいつの事好きなんだろ?」

「そ、それは……」


 うつむき、言い淀む様子をYESと捉え、黒木は子分たちに指示する。


「おいお前ら! そろそろ楽しいショーの始まりだ、お客様にたっぷりと見せてやれ」


 不良達が湧きあがり、どれだけ意識があるかも分からない皆人の両腕を持ち上げて武美の前まで引きずっていく。


「おら起きろ!」

 一人の不良がみぞおちを蹴り飛ばし、咳き込んだ皆人が顔を上げる。

「皆人……あ――」


 武美はマットの上に仰向けに倒され、黒木はふところから取り出したナイフを武美のシャツに添える。


「動き止めるのに手足縛る必要あったんだけどよ、そうすると服脱がせられないんだわ、つうわけで、まずは服の解体ショーだぜお前らぁ!」

『イェーイ!!』


 再び湧き上がる子分達の様子を見て満足げに笑い、黒木は武美と皆人へ目配せをする。


「俺は優しいからちゃんと説明してやるよ、まず武美の服と下着を切り刻んで全裸にします」


 ナイフの先を武美のシャツに軽く這わせる。


「続いて愛しい皆人くんの目の前で武美を犯します」


 その言葉に、皆人と武美の顔が凍りついた。


「犯すぜぇ、嫌がっても痛がっても無理矢理ナマ中出ししながらその様子をビデオに撮りながら皆人に見てもらって、俺のキンタマが痛くなるまで犯したら、あとは他の連中にぽーいだ」


 よりいっそう醜悪さを増した笑みで黒木は喉の奥で笑い声を上げる。


「ここまで数が多いと皆人からは見えないかもしれないけど、イイ声ぐらいは聞こえるだろうぜ、何十人もの男達に全身を弄ばれてケツにもマンコにも喉にもヘタすりゃ二、三本ずつチンポぶち込まれて裂けちまうかもなぁ、このデケーおっぱいなんか取り合いでもげちまうかもしれねーけど、まあこいつらも思春期真っただ中って事ではそのへんはご愛嬌だ」


 恐怖で声も出無い武美のシャツについにナイフが入れられる。

 だがその時、急に皆人が自分の足で立ち、両腕をつかむ不良達をふりほどく。


「なんだこのやろ!」

「暴れるなっつの!」


 必死に抵抗し、武美を助けようとする皆人へ不良達が次々掴みかかる。


 これ以上殴るとさすがにまずいというのはいくらバカな不良達でもわかるらしい、誰も殴ろうとはしないが、大勢で詰めかけたのが裏目に出てしまう。


 揉み合う集団は壁に立てかけてある鉄骨の束にぶつかり、自分たちに振りかかる影に不良達は一斉に逃げだした。


「え?」


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