第30話 主人公参上!


「武美!!」


 工場の倉庫のドアを開けて叫ぶ皆人に不良達の視線が集まる。

 数多くの資材と立ち並ぶ不良達の奥、そこには確かに自由を奪われた武美と全身から不良のリーダーですオーラを醸し出す長身の男がいた。


「へー、ちゃんと来たじゃねえか」

「皆人……あんたなんで来たんだよ?」


 答えない皆人に、黒木が口火を切る。


「お前やっぱこいつの彼氏だったのか?」

「ちっがぁーう!!!! ってなんで武美泣いてるんだよ、ま、まさかこいつらに酷い事を!?」


 力いっぱい否定する皆人に涙が止まらない武美だった。


「いや、あんたに助けられる日が来たかと思うと涙がね」

「なんだよ助けに来てやったのに、そんな事言うなら帰っちゃうぞ!」

「まぁ待てよ、てめぇが武美の彼氏じゃねえのはよーくわかった、じゃあ友達を助けに来たか? それとも何か弱味でも握られているのか?」


 その問いを愚問とばかりに皆人はキラリと歯を光らせ曇りなき眼(まなこ)で、


「悪党め、決まっているじゃないか、そんなの武美が俺の友……前者より後者かな?」


 一瞬で眼が濁りきった。


「んだと皆人てめー! 友達だぐらい言えよ! 幼馴染だろ!!?」

「だって今までお前にいじめられた思い出ばかりで楽しかった記憶とか皆無だぞ!! ぶっちゃけ俺自身なんで助けに来たのかよくわからん!!」


 叫ぶ皆人に武美も負けじと叫ぶ。


「馬鹿野郎! ガキの頃から毎日遊んで夏は海に行って秋は山に行って冬はスキーに行ったじゃねぇか!!?」

「毎日オモチャやお菓子取られてフルボッコにされて夏は女子の前で海パン盗られてフリチンにされたり砂に埋められて、秋はイガ栗投げられて熊やハチの囮にされて冬は俺を人間ボードとかいってスノボ代わりされた挙句雪山に埋めたまま置き去りにされた事しか覚えてねーよ!!」


 皆人の話が進むほど不良達の顔が青冷める。


「そ、それぐらい子供の時のちょっとしたお茶目だろ!?」

「しかも幼稚園の頃から週一で金的蹴られて不能なったらどうしてくれるんだよ!!?」


 不良達が一斉に股間を抑える。


「うるせえ! てめーの粗末な短小包茎ストローなんかどうせ一生使う機会ねえだろ!?」


 マトを射られ過ぎて皆人が血の涙を流す。


「んだと武美てめぇ! 小六以来俺の見た事ねえくせによくもそんな事が言えるな! 俺の暴れん坊将軍が出陣した時どれほどのリーサルウエポンになるか知らねえのか!? 言っとくけどマジデカイからな! ロケットだからな! しかもズル剥けだからな!! 嘘だと思うなら今夜見せてやんよ! 俺の聖剣で足腰立たなくしてやるぜ!!」

「み、皆人の……ぁぅ……」


 耳まで顔を赤くした武美がうつむく。


 皆人にしてみても勢いで言っただけで本気では無いのだが、こんな反応をされてしまうとなんだか気まずい。


「えと、武美……なんか言ってくれないと」

「やれ」


 黒木の指示で周りの不良が一斉に臨戦態勢に入り、皆人も表情を改める。


「ギャグパート終わりか、いいぜ、見せてやるよ、俺の本当の力ってやつをな」

「なんだと?」


 警戒する黒木に皆人は余裕に満ちた顔で告げる。


「俺はな、今まで弱いフリをしていたのさ、なんでか分かるか?」


 今までとは違う、皆人の放つ言いようの無い威圧感に不良達の足が一歩下がる。


「それはな、俺が本気を出すと殺しちまうからだ、どんな不良も、武美もだ、だから俺は誰も傷つけないよう自分を抑えてきた」


 大きく目を開き、悪漢共に皆人は言い放つ。


「退け! 愚かな弱者共!! さもなくばこの三波皆人の怒りから免れないと知れ!!」


 この人数を相手にそこまで言い切る皆人に、不良達は完全に呑まれ、黒木でさえ一粒の汗を流した。


「(まさか、おじい様には隠された力が!?)」


 ユイはここへ来るまでの間に皆人に言われた約束を思い出す。



「いいかユイ、これからの事には絶対手ぇ出すなよ?」

「何故ですか?」

「お前は二十二世紀の人間だろ、この時代のトラブルに首突っ込むな」

「……おじい様がそう言うのなら、わかりました」



「(もしや、あれは私の力なんていらないというおじい様からのメッセージ)」


 完全に腰が引ける不良達、しかし、それで退く黒木では無い、あれはハッタリだと自分に言い聞かせて、黒木は声を張り上げる。


「かかれぇー!!」

『おおおおおおおお!!!』


 一斉に襲い掛かる不良の大群を、未来の童貞神皆人は薄い微笑で迎えた。

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