第29話 さらわれるヒロイン

 二度目の着信は、アクセサリー売り場で猫に関係する商品を選んでいた時だった。


 『またかよ』とばかりに嫌そうな顔で携帯を開いて、今度のメールには動揺を隠せなかった。


 ごくり、とツバを飲み込んだ皆人に気づいて静葉も携帯画面を覗き込んだ。


 両手両足の自由を奪われた武美の画像、周りは腰から下しか写っていないが、多くの男達に取り囲まれているようだ。


 最初はイタズラか何かだと思ったが、いくらなんでもこんな屈辱的な画像を撮らせたりはしないだろう。


 そんな事は武美のプライドが許さないはずだ。


 じゃあ静葉とのデートを切り上げて指定の場所に向かうか?

 しかしこれが武美の仕掛けた一世一代の大ドッキリ作戦だったら?


 武美はそんな事をするような性格じゃないだろう、でも武美ならどうせ自力で脱出できるはず。


 ならどうして脱出しないでこんな無様な写真を撮られている?


 頭の中で考えがぐるぐると回ると、静葉が不意に声をかける。


「行ってあげて」


 少し驚いて、皆人はすぐに言い訳をする。


「いやでも静葉ちゃんがせっかく」

「あの電話ユイちゃんでしょ?」

「な、なんで?」


 嘘がバレてドキリと心臓が跳ね上がる皆人に、静葉はたんたんと告げる。


「だって皆人君に私を誘う勇気なんてないもん、ユイちゃんに言っておいて、声真似はその人の性格を捉えないとバレるって、でもあそこまで完璧に似せるなんて、別の内容ならわたしでも騙されてと思う、だから」


 今まで見た静葉とは違う、妙な程強い説得力を持った声がかかる。


「行ってあげて」


 その真摯な表情と声に押されて、皆人はその場から走り去った。


 その背中を見て、静葉は大きく息をつくと頭を掻いた。


「本音で喋ったの何年ぶりかなぁ……あ、ていうかこれって武美ちゃんに加担した事になるのかな」


 いつのもの雰囲気とは違う、やや面倒そうな顔で壁際の窓へ歩きながら、青い空へ視線を投げる。


「皆人が武美ちゃんを選ぶか、鈴音ちゃんを選ぶか、それとも誰も選ばないのか、慎重に選びなさいよ、すくなくとも私みたいな女選んだら」


 窓枠に寄りかかり、デパートの出口から飛び出す皆人を見下ろしながら鼻で笑う。


「バッドエンドだぞ」

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