第24話 「私が貴方を、この物語の主人公にしてみせます!」


「うぅ、今日はマジで死ぬかと思ったぜ……」


 武美達と別れ、夕日に染まりながら歩く二人きりの帰り道、皆人は一ミリしかないライフゲージを支えになんとか自分の足で歩く。


「あの拳は世界を狙えると確信します」


 お土産にもらった週刊少年スカイを大事そうに抱き抱えながら、無表情のままキリッとした空気で言うユイに皆人は溜息を洩らす。


「あいつに貧乳は禁句だから覚えとけよ、何せ貧乳って言った中堅不良グループがあいつ一人で壊滅したことがあるぐらいだからな」

「心得ました」


 ピシッと敬礼するユイ、少年スカイを落とさないよう片腕でしっかり支える。


「そういえばお前、なんでそれそんな大事そうに抱えてんだ? 未来ならこんな古い漫画より面白いものいっぱいあっただろ?

 それとも未来はレトロコミックブームか?」


 すると、常に冷静だったユイが途端に口ごもり、


「そ、それはおじい様に…………また読んで欲しくて」


 最後の方は声が小さすぎて聞こえなかったが、皆人は初めてユイの顔が自然に動いたのを見た気がした。


 僅かにだが、確かにユイは恥ずかしそうに、何かを隠すような、そんな表情をしたのだ。


「……まあいいや、そういえばさ、お前いつまでこっちに残るんだ?

 俺に彼女ができるまで? 童貞喪失するまで? それとも俺が誰かと結婚するまでいるのか?

 俺の為に来てくれたのは嬉しいけどあんまり長くいるとお前もどんどん大人になっていくんだから、向こう戻った時にみんな驚くぞ、それとも子供に戻る機械があるとか?」


「はい? 私はずっとここにいますよ」


 頭に疑問符を浮かべるユイに皆人は「だから」と切り出す。


「ずっと長くいるのは分かってるけど、どれくらい長くかって聞いてるんだよ、それともあれか、俺に子供ができるまでとかそんな長い間か? お前マジで大人になっちまうぞ」


 話が通じねえなあ、と呆れるが、



「だから、死ぬまでずっとここにいますよ」



「え………………?」


 皆人の心臓が一瞬止まる。

 今まで見てきたタイムスリップ物の中で、そういう展開はあった。

 だから予想の範囲に入っていない訳では無かったが、だが、それはユイにとって……


「そもそもタイムスリップには莫大なエネルギーがいるんです、あっちからこっちに来る時は研究所のエネルギーで来れましたが、そもそもタイムマシンの燃料はこの時代ではまだ発明されてませんし、試作品だったせいか一度の時間跳躍で故障した場所もあります。

ですから科学の進んでいないこの時代から未来に帰る事はできません」


 皆人は心の中で何度も『嘘だ!』と叫んだ。


 ユイにはユイの人生があって、未来にはユイの生活があったはずなのだ。


 なのに、一切の生活を捨て、こんな一〇〇年前の時代に来て、自分の人生を他人の為に使おうとしている。


 こんな小さな、まだ親の庇護の元、友達と一緒に楽しく笑いながら遊んでいるはずの子供がそんな事をしていいはずがない。


 自分への恩がどうとか言っていたが、それはあくまで未来の自分。


 今ここにいるのはまだ一七年しか生きていないただの学生で、ユイには何もしてあげていない。


 そんな自分の為にユイの人生が犠牲になっていいはずがないと、そう思って拳が震える。


 すると皆人の気持ちに感づいたのか、ユイは前へ進み出ると振り返って語る。


「おじい様、未来の貴方は言っていました。

この世が一つの物語だとしたらきっと自分は脇役なのだろうと、だから友達も家族も無く、何をしても報われないのだろうと……だから」


一度切り、皆人の目を真摯に見つめてユイは力強い声で言う。


「私が貴方を、この物語の主人公にしてみせます!」





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