第21話 クッキングタイム

「みんないらっしゃーい」


 鈴音家の呼び鈴を鳴らすと、ピンク色の可愛いエプロン姿の静葉が出迎えて皆人達を招き入れる。


「静葉おねえちゃん、遊びにきたよー♪」

「お邪魔します静葉ちゃん」

「おっす静葉、ケーキ作りに来たぜ」

「皆人にはアタシ達から話といたから」

「うん、じゃあ上がって、もう材料は用意できてるから」


 四人は靴を脱いで上がるとそのまま台所へと通されて、手を洗うとそれぞれ用意されたエプロンを着る。


 鈴音が緑色の、武美がオレンジ色の、そしてユイが青いエプロンをつけて、皆人も黄色で皆と同じ可愛いフリルのついたエプロンを着た。


「あはは、皆人アンタそれ似合ってるわよ」

「悪かったなお似合いで……」


 腹を抱えて笑う鈴音に皆人の眉間にシワが寄るが、


「ホント似合うよね、実は皆人君て昔から女装とか似合うと思ってたんだよねー」

「えっそうかな静葉ちゃん、実は俺もそう思ってたんだよね、いやー、やっぱ俺にはこういう女用のエプロンが似合うよな」


 今日も自重しないデレっぷりに今度は武美と鈴音の眉間にシワが寄る。


「ああもうそんなのいいからさっさとケーキ作るぞ、準備はいいかユイ!」

「うんいいよ♪」

「よっしゃ、今日はこの武美姉ちゃんの料理捌きを見せてやるぜ!」

「やる気まんまんね、じゃあ生クリーム作るからみんなで手分けして混ぜましょ」


 優しく笑う静葉はさっそく作業に取り掛かった。


 静葉が大き目のボウルに氷水を入れ、その間に皆人が別のボウルに市販のクリームとグラニュー糖を混ぜてからそれを氷水の入った大き目のボウルに重ねる。


 続けてボウルを斜めにして静葉が泡立て器を左右に動かす。


 そうやってとろみがつくと、今度は楕円を描くように泡立て器を動かし、空気を含ませるようにして泡を立たせればよいのだが……


「じゃあ鈴音ちゃんよろしく」


 これだけの人数がいる上に、長時間混ぜる作業ゆえに静葉はとろみがつくと楕円を描くように混ぜる作業もそこそこにボウルを鈴音に渡して、動かし続けた右腕を軽く揉む。


「見なさい皆人、これが緑川鈴音様の泡立て器さばきよ!!」


 がちゃばが! がちゃばが! がちゃばが!


 楕円の『だ』の字も書けないような手つきでボウルの中のクリームが混ぜられるが、空気など欠片も混ざって無いのは火を見るより明らかだ。


「なにやってんだ鈴音貸せよ、こういうのは素早く勢いよくだな」


 鈴音からボウルをひったくりクリームを混ぜる武美。


「うおおおおおおおおおおおおおお!!」


 だが当然彼女に料理などという高等技術は望むべくも無く、クリームを派手に飛び散らせながらボウルの中のクリームがみるみる減っていく。


 がしっ


 武美の腕をつかみ、冷めた顔で皆人がフルフルと首を振った。


「ったく、クリーム無くなっちまっただろうが汚ねーな、ちょっと貸せよ」


 しょぼんと肩を落とし、こぼしたクリームの後片付けをする武美の前で皆人はボウルにクリームとグラニュー糖を足すと軽やかな手つきで泡立て器を操り、ボウルの中でクリームが踊る。


「皆人君うまーい」

「でへへ、そうでしょ静葉ちゃーん」

「ぐぐ、相変わらず家事能力だけは無駄に高いわね」

「認めたくねーけどな」


 鈴音と武美が歯を食いしばる前でなおも皆人はその男子らしからぬスキルを披露する。


 リズミカルに泡立て器を動かすその技量は見事としか言いようが無い。


「まあ正史では今後一〇〇年間自炊する方ですから」


 皆人にしか聞こえない声でボソリと言うユイに皆人の口がへの字に下がる。


「ああもう皆人! 出来上がるまで部屋で待ってろ!」

「えっ、でもよ」

「でもじゃないの! 台所は女の城なんだからアンタは出て行きなさい!」


 ほらほら、と武美と鈴音に台所から追い出され、皆人は渋々静葉にリビングへ案内される。


「ごめんね皆人君、でもあれじゃ武美ちゃんと鈴音ちゃんの立場無いし」

「あいつらの料理ベタは今に始まったことじゃないだろうに、まあ鈴音の料理は食えるだけマシだけど」

「ふふ、そうね」


 リビングに着いてソファに座ると、静葉が皆人の好きな週刊雑誌をテーブルに置いた。


「来週の週刊少年スカイ発売日が土曜日の今日だから、こうなると思って午前中に買って来たよ」

「ありがとう静葉ちゃん、君は女神だ!」


 こうなることを見透かした上にそのためにわざわざ自分の好きな漫画雑誌を買ってきてくれるなんてこの娘はどれだけできた女性なのだろうか。


 自分が好きになった人の素晴らしさを再確認して、皆人はその表紙に思わず声を上げる。


「おっ、今週はバトロワ学園が表紙か、って、実写映画化ってマジかよ、先週号は2chでご都合主義スレッドが立って人気下がるかと思ったけど、これなら大丈夫そうだな」


 こうして、皆人は今後一〇〇年間持ち続けるその雑誌を読みふけった。


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