第18話 童貞喪失の方法


「なあユイ、ちょいと聞いていいか?」


 休日の朝、皆人は自室で二十二世紀から来た猫耳少女を睨みつける。


「なんですか? 医者がサジを投げた聖棒とゴールデンボールを一週間で自己治癒させた性職者さん?」

「いや、それはもういいからよ、そろそろお前の具体的なプロセスを聞かせてくれよ」

「プロセス?」

「だーかーらー! お前がこの時代に来た目的を言ってみろ!」

「おじい様に彼女を作って童貞喪失させて結婚させて幸せな人生を送ってもらう事です」

「で!? その為にお前は何をするんだよ!?」


 いつにない迫力で迫る皆人に、相性診断機をいじるユイは人差し指を立てる。


「はい、あれからさらに細かいデータを入力してあらゆるシミュレーションをしましたが、やはりおじい様は武美さんとご結婚されるのが一番幸せなようなので、今後は武美さんを落とす方法を考えようかと(もっともあちらは片想い中だから告れば一発OKですが)」

「ちっがぁーう!! 俺が求めるのは静葉ちゃん一択!! キングコングとセックスする趣味はねえ!!」


 怒髪を突いて握り拳を作る皆人。

 よほど武美と結婚したくないのだろう。


「そこまで武美さんは嫌ですか? じゃあ幸せ率二番手の鈴音さんで手を打っていただけませんか?」

「あんな自慢しいのワガママお嬢様の面倒なんか見られるか!! 身分の違いは不仲の元って言葉知らねえのか!?」

「え? じゃあニンゲンとしての身分が違う静葉さんとも上手くいかないじゃないですか?」

「なんだよニンゲンとしての身分て!?」

「だからおっぱいしか頭にないゲス野郎(・・・・)と女神(・・)という圧倒的なヒエラルキー差が」

「お前本当に俺の孫か……?」

「戸籍上は娘ですが一応孫です」

「ああそうですか」


 諦めたように息をついて胡坐(あぐら)を崩す。


「てかお前がそういう事しようとしてるのってツルの恩返し的なアレだよな?」

「はい、孤児院で暮らしていた私を拾ってくださったおじい様への恩を返すべく、私はこの時代に参りました」

「そのわりには誰でもいいからとりあえず結婚させちまえ的な空気を感じるぞ」

「何を言いますか、これは全てこの相性診断機のシミュレーションに基づき、おじい様がもっとも幸せになれる相手と結婚して頂くべく奔走しているのではありませんか」

「俺にはその診断機自体がうさんくさいけどな」

「何を言いますか、この診断機は的中率一〇〇パーセントと学会でも評判の品で、来月には日本中の結婚相談所に正式導入される予定だったのですよ」

「本当かよ?」

「本当です」

「じゃあ他の二人はどういう結果が出てるか教えてくれよ、参考までに」

「えーっとですね、鈴音さんの場合だと」


 相性診断機を操作して鈴音との相性を表示する。


「相性率一〇〇パーセント、こちらもエリートの鈴音さんがバリバリのキャリアウーマンとして活躍しておじい様は主夫としてサポート、どんどん出世する鈴音さんと一緒に子宝にも恵まれて武美さんの時程ではありませんがかなり裕福に暮らすようですね」

「へぇ、っで、肝心の静葉ちゃんとは?」


 鼻息を荒くする皆人に迫られて、ユイは静葉との相性を表示する。


「相性マイナス四〇〇パーセント、付き合えません」

「つ、付き合ったとしたらっていう仮定にできないのかよ!?」

「デート一回目でフラれます」

「結婚したらって仮定に!」

「結婚式当日に逃げ出します」

「結婚生活が始まると仮定してくれ!」

「成田離婚してますね」

「くそー! でも武美や鈴音とは結婚したくねーし俺はもう本当に一生童貞なのかー!」


 こんなの嘘だと畳の上でのたうちまわる皆人をユイは『どおどお』と馬にするようになだめる。


「安心してください、私もいいかげんな気持ちでこの使命を帯びているわけではありませんよ、何せ私が尽力してもなお、おじい様がリア充爆死しろな状態ならば」


 浴衣の裾をたくしあげて、純白のパンティを見せるユイ。


「この私自らの純潔を捧げる覚悟ですから」

「俺に幼女相姦の趣味は……ねえ!」

「今の間はなんですか?」

「うるせえ!」

「それに私だっておじい様が三〇歳になる頃には二四歳の大人の女性ですよ」


 グラビアモデルのように体にしなを作りセクシーポーズをするユイ、少女特有の可愛いらしさと瑞々しい肌が大人には無い、背徳的な色香を持つが皆人の空手チョップがプチ炸裂する。


「コラ、子供がめったな事言ってはいけません……って、どうした?」


 見れば、ユイが叩いた頭に手を添えながら、ぽーっとした顔でこちらを見て来る。


「おいどうしたユイ」


 また軽く頭をチョップで叩くと、ユイはハッとしていつもの落ち着きを取り戻す。


「今なんかトリップしてたけどそんな打ちどころ悪かったか?」

「い、いえ、何でもありません、話を戻しますが、とにかく私が来た以上、おじい様の童貞は喪失したも同然とお考えください」


「小学生女児に童貞強奪宣言をされる俺はどうすればいいんだ?」


 ひくつく口角が止まらない。


「奪われたくなかったら根性入れて彼女作ってください、私が全力でバックアップしますから」

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