第10話 ひでぶぅううううう!!!
「超究武神激烈豪気衝(ボディブロウ)!!!」
「ひでぶぅううううううううううううううううう!!!」
飲み込んだ川の水全てを吐き出しながら皆人に意識が戻る。
「はっ、俺は一体?」
「覚えていないのですか? おじい様は武美さんのカメハメ波を受けて川まで飛んで溺れていたのですよ」
「え? 川は飛び越えた気がするんだけど、えーっとたしか誰かに引きずられて」
腕を組む皆人の頭をユイがよしよしと撫でる。
「まあまあ無い頭を絞っても休むだけなのですから身の程を弁えて早く帰りましょう、武美さんも帰ったようですし」
「あれ、もしかして俺馬鹿にされてる?」
「………………」
性格のチャンネルを変えて。
「おにいちゃん、早くかえろ♪」
「うん帰ろうねユイちゃーん、ユイはかわいいなー」
三波皆人、世界一春な男である。
「ところでこのグローブはおじいさまのですか?」
指差す先にあるベンチに置かれたグローブは自分のではない、これは、
「武美のだな、なんだあいつ忘れていったのか」
「ほお、では武美さんの家に行くオフィシャルな理由ができたと?」
「目を輝かせるな、俺はあくまで静葉ちゃんが好きなんだから、お前もちゃんと強力してくれよ」
「しかし静葉さんがおじい様の童貞をもらってくれる可能性なんて日本の税金が正しく使われるくらいありえないことですよ」
「うっわ、なんか凄く自信を失う! そして未来の日本も駄目なのか、そうなのか!?」
「消費税は三〇パーセントですね」
「ぐおおおおおおおおおつまり二三八四円のエロDVDを買ったら三〇九九円になってしまうのか!!」
「そういう計算は速いですね」
「くっそできるだけ消費税が安いうちにエロスを買いだめしなくては、とっ、そういえばエロ本と言えば武美の家には用事もあるしちょうどいいか」
「用事? ならなんで武美さんがいるうちに済ませなかったんですか?」
「いや、武美との約束じゃないからな」
「?」
場所は変わって武美の家。
シャワーで汗を流し、女しかいない家だけに警戒も緩く下着もつけずに武美は二階への階段を上る。
頭を拭く手の動作で豊満な胸が小刻みに震え、階段を一段上がるごとに全体が大きくブルンと揺れる。
足で部屋のふすまを開けて、武美は頭を拭くバスタオルを天井近くの物欲し棒に投げ上げる。
「ふぅ……」
部屋の大鏡に自分の裸体を映し、左右の手で自分のバストとヒップに手を当てる。
「…………また、少し大きくなったな、特に」
ヒップに当てた左手もバストに当てて、両手で左右の胸を持ち上げる。
「さすがにこれ以上デカくなられたらなぁー」
皆人のようなおっぱい星人からすれば、メロンのようなおっぱいは憧れかもしれないが、当人からすれば迷惑極まりない。
無論、武美の体は爆乳ごときで肩がこったり、仰向けになると重くて苦しいなどと軟弱な事は無いが、その体積だけはどうしようもない。
はっきり言えば、邪魔なのだ。
着られる下着も、服も大きく制限されるし、武美はオシャレに無頓着な印象を受けがちだが、実際には着られる服が少ないだけ。
だが男の皆人はそこを分かってくれない。
いつものメンバーで出掛ける時、静葉や鈴音の服装ばかり褒めて、自分に向けられる言葉は良くてせいぜい『かっこいいな』である。
まぁ、男モノの服を着て行った自分にも非はあるが、ソレとコレとは話しが別だ。
去年、無理してサイズの合わない服と下着を着て鈴音の家に集まった時、いつものメンバー全員の前で盛大に服とブラが弾け飛び、バストを御開帳してしまった事は今でもトラウマだ。
「うぅ」
頬が染まる。
厳密には武美でも着られる服はあるが、母が買って来た雑誌の中身は今思い出しても顔が熱くなる。
あのグラマーな外国人モデル達が着ていたオトナ用の服を着て皆人に会うなど、武美の乙女ハートが許せない。
それでも、
「………………」
横目でタンスの一番下、下着を入れるその段にチラリと視線を投げて、武美はゆっくりと開ける。
手前にはいつもつけている白い下着、しかし引き出しをさらに引くと、奥からは赤や黒、さらには紫の、それも細かい刺繍が施された逸品がズラリと並んでいる。
それも、手に取って広げれば、壁のカレンダーが良く見えるものばかり、ようするに透けるか細いか、酷いモノはただのヒモだ。
熱くなる顔が耳まで赤くなる。
皆人とは幼稚園からの付き合いだ。
皆人がグラマーな女性が好きなのは知っている。
恥ずかしいが、それでも皆人の気を引けるならと、皆人がそういうのが好きならと、武美は高校に入学してから母が買ってきた雑誌の下着コーナーの品を少しずつ買いためていたりする。
服は無理だが、まずは見えない部分からという事だ。
それに武美も以外に耳年増で、そういう事への知識が無いわけでは無い。
高校生活という、中学よりも大人に近づいた世界に、皆人とそういう事が起こるかもしれない、というちょっとした期待から勝負用に買ってしまったという経緯もある。
買った日以来一度も着なかった、着れなかったソレに、おもむろに足を通してみる。
自重しない胸の成長率を考えて大きめを買ったため、ブラのサイズもぴったりだ。
黒くて部分的に透けているソレを着て鏡の前に立つと顔がますます赤くなる。
自分は何をバカな事をしているんだと自責する自分と、やはりこういうのが似合っているような気がしてならない自分の板挟みになる。
そうして、下着を脱ぐとまた次の下着をつけて、一枚ずつ改めて見直していく。
一枚たりとも武美の趣味ではないが、生まれ持った体にはどうしようもなくマッチしてしまっている。
この姿を見せれば、皆人は自分の事を好きになってくれるだろうか、体で釣るようで卑怯な気もするが、自分の武器と言えばこれしかない。
ただでさえ皆人は自分を嫌っているのだ、手段は選べない。
静葉みたいに振舞うことができればいいのだが、武美の性格上それは無理だ。
告白も恥ずかしくて絶対できない。
ならば体で釣って皆人のほうから告白させてこちらはOKするだけ、それがせいいっぱいだが皆人は自分の事が嫌いで静葉が好き。
これをひっくり返そうと思えば……
「静葉より、あたしの方が大きいんだから、あたしのほうが皆人を満足させてあげられるに決まってるんだ……でも……」
母の事を思い出す。
「あんな体になったらどうしよう……」
幼い頃から皆人より高い身長だけは諦めているが、他の部位の成長だけはいい加減に止まれと心の中で叫ぶ武美であった。
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