第6話 相性診断

 土曜日の朝、ご飯を食べ終わった皆人はまたパソコンでニコニコできる動画サイトをいじる。


「最近幻想入り動画多いよなー、でもうpしないまま半年とかマジやめてほしいよな、完走できないなら最初からやるなっての……(チラリ)」


 いつもは一人の部屋だが今は違う。

 何故ならその存在は夢や幻でなく現実なのだ。


 背後でなにかノートパソコンのような物を操作する青い浴衣姿の猫耳少女ユイ。


 この自称二十二世紀からきた不思議少女の正体は皆人の孫娘でその目的は皆人の童貞を喪失させる事。


 乗って来たタイムマシンはいつのまにかどこかへ消えて本人曰く小さいカプセルに入っているとの事。


 さすが二十二世紀、四次元に繋がるポケットは無くとも七つ集めると願いが叶うボールを探すアドベンチャーの序盤を彷彿とさせるアイテムは常備しているようだ。


 彼女が持つサイレントスーツという透明人間になれる道具一つを取り上げても、もう彼女が未来から来たというSF設定を疑う気にはならない。


 だが、それでも今まで独占してた一人部屋に、年下とはいえ美少女が居座っているというのは気になる。


 ただ、確かに皆人はオタクだが、いくら可愛くとも未来の孫にヨコシマな気持ちはない、それでもネットでちょっとエロイ物を探す男の冒険や積みゲー処理ができないのが不自由だ。


 今ユイがトイレに立とうものなら一瞬でイラスト置き場で『R‐15』タグをクリックすること請け合いだ。


 しかしユイは先程から白いノートパソコンのようなモノをいじったままどこにも行こうとはしない。


「……ところでさ、お前は何してんの?」


 たまらず聞いてみると、ユイは無感動に説明を始める。


「おじい様と周囲の女性達との相性診断です。今週中に全員の髪の毛は採取しましたし、この一週間皆さんを監視して得た情報を……たった今データ入力が終わりました」

「相性診断んんん??」


 なんだそのゲーセンやポケットゲームにありそうな女子ゲーは、と皆人はイスから転がり落ちるように畳に降りるとずりずりにじり寄る。


「んー?」


 画面を覗き込むと皆人と武美の顔が表示されている。


 そしてユイがキーボードのようなものを触ると、画面に文章とその横に刺し絵のようにミニドラマ的な映像が映る。


「ほおほお素晴らしい、お二人の相性は四〇〇パーセント」

「はぁああああ!!? なんであんなゴジラと!?」

「おじい様のぐーたらな性格も武美さんがしっかり監督して適度に叱る事で改善され、文句を言いつつやることをしっかりやる真人間になっています」

「これって相性診断機械じゃねーのか?」


 画面には結婚後の映像や説明が映り、皆人は眉根を寄せる。


「二十二世紀の相性診断機ですから、相性率だけでなく具体的にどう相性がいいのか悪いのか、そしてどういう人生を送るのかをシミュレーションしてくれるのです」

「へぇ……、っておい、昨日のレールガンもだけどこれもまさか……」

「ああはい、研究所をテロった時に役に立ちそうなモノをいくつか拝借しました」

「真顔で何恐ろしい事言ってんだよ! まさか他にも危険な発明品持ってるんじゃないだろうな!?」

「危険ですか? それならば……」


 浴衣の袖から小さなカプセルを取り出して握りつぶすと、一瞬の間に光の粒子がユイの背中から溢れだして、光は薄いランドセルのような形なってから、四本の巨大アームを形成した。


「これは対第四次世界大戦用決戦兵器デーモンアーム、四本のアームは最大五〇メートルまで伸びて一本で一〇トンの物を持ち上げられるほどの力があります。

さらに上二本の手の平からは電磁投射機関銃(レールマシンガン)、下二本の手の平からはビームが出て飛行能力まで備えている優れモノです」


 無表情のまま、胸を張って自慢するユイへ皆人も無表情に、


「ユイ、それちょっとカプセルに戻せ」

「いいですよ」


 デーモンアームが光になり、ユイの手の中でまた小さなカプセルに戻る。


「ハイ没収!!」

「か、返して下さいおじい様、これからそのデーモンアームでおじい様の人生の障害となる人間全てを抹殺するという壮大な計画が」

「孫娘を人殺しにしてたまるか!! とにかくこんな危険物質は使用禁止です! だから昨日のレールガンもよこせ!」

「これだけは駄目です」

「ええい黙れわがまま猫め! こうなったら力づくでも……おっ、画面が変わったぞ」


 ユイに襲い掛かろうとする手を止めて、ユイと一緒にまた画面を見る。


「なるほど、活気と商才溢れる武美さんが店長でマスオさん状態のおじい様は主夫をしながらそのサポート、金剛商店は全国にチェーン店を持つ日本屈指の百貨店になり年商数千億、子供は八人も生まれ経済的にも社会的にも最高の人生を送り子供と孫とひ孫達とひいひい孫に看取られ大往生、おじい様、武美さんと結婚してください」


「イヤだよ!!」


 全力で否定する皆人、首を振り過ぎてどこかへ飛んでいきそうだ。


「ですが武美さんと結婚すればおじい様の人生は約束されたも同然ですよ?」

「こうなったら武美を亡き者に! ユイ、レールガンを貸せ!」

「自分で殺すのはよいのですか……」

「いくらお金があっても子宝に恵まれてもあんな暴力女と結婚したら結婚初夜に殺されるに決まっている! その機械は間違っているぞ!!」


 声を大にする皆人を「まぁまぁ」となだめてユイはまだ機械を操作する。


「初夜に死亡ですか? 確かに武美さんが常人と結婚した場合、相手が武美さんの体に溺れて三年以内に腹上死する可能性が二〇パーセントとありますが」

「あいつそんな魔物だったの?」

「ですがおじい様の見下げ果てた、恥を知るべき、救いようのない、少しは自重すべき熱き性欲と性力ならば武美さんの妹と未亡人の母親も含めた四Pでなお圧倒できると機械には出ています」

「……俺そこまでエロイかな?」

「はい」


 即答だった。

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