第5話 こんのスネ子がぁあああ!


 鈴美さんに送ってもらい鈴音の家に到着するが鈴音の家の大きさには毎回驚かされる。


 三階建てで敷地面積は学校のグラウンドより少し狭い程度。


 巨大な門をくぐって一〇メートル先、庭園を抜けた先に入口がある時点で庶民の常識から大きく逸脱している。


 皆人の家の四倍の面積がある玄関に上がってから通されたリビング、と見間違うシアタールームは赤い絨毯が敷かれた二〇畳以上の広さがある場所で、壁一面を覆う巨大なディスプレイは毎度ながら思わず見上げてしまう。


「じゃあ私はオバサンと話しているから」

「うん、ありがとうね鈴美おねえちゃん♪」


 鈴美が退室すると、野球の血と泥で汚れた武美と皆人はこの家に二つあるシャワールームにそれぞれ通される。


 体を綺麗にしてから学校の制服を着直してシアタールームに戻ると、お手伝いさんの女性が人数分の飲み物を持ってきてくれたところだった。


 彼女はブルーレイの準備をしてから素早く退室する。


 相変わらずの金持ちお嬢様っぷりに感心している間に照明が落ちて、本物の映画館さながらに薄暗いシアタールームでドラマ『踊る教師』が始まった。




 ブルーレイ本編と未公開映像やキャストインタビューなど特典映像を見終わると日は完全に落ちて、やや健全でない高校生でもそろそろ家に帰る時間となる。


「じゃあまたな鈴音」

「今日は楽しかったよ」

「うん、またね♪」


 武美と静葉に続いて皆人も、

「そいじゃ俺も」

 と席を立つ。


 すると鈴音はいきなり皆人の腕をつかんで止める。


「ちょっと皆人は待って」

「え? また俺だけ?」


 皆人の言葉通り、何故か三人で鈴音の家に来ると皆人だけが残される事が多い。


 すぐさま武美がムッとするが静葉に引きずられて強制退場。


 あとに残された皆人は鈴音に引かれるがままにソファに座るが、皆人の顔には野球の試合同様に帰りたいと書いてある。


 何故なら、毎回一人だけ残されて何をするかと言えば、実に何もしないのだ。


 今も皆人の横にちょこんと座るが何かを話すわけでもなく、下を向いたままモジモジして、時々皆人の顔をチラリと見上げる。


 皆人からすれば、この時間が理解不能で非常にストレスとなっている。


 その上、この退屈な時間の後には必ず、

「そ、そうだ!」


 ソファに囲まれたテーブルに手をついて、

「このテーブルドイツ製で二〇〇万円もするんだよ!」

「ふーん」


 二人が座るソファを撫でて、

「このソファ買い換えたのか気づいた? こっちはフランスから輸入したモノで一つ六〇万円もするんだよ!」


「へー」


 庶民の自分に高級品自慢をされても、その商品のどこにそんな価値があるのかわかりませんとばかりに皆人はつまらなさそうに息を漏らす。


 続かない会話に鈴音は「えーっと、えーっと、それからそれから」と他に何かないかと部屋を見回すが、皆人は立ってドアに足を運ぶ。


「あ、あの皆人!」

「お前ん家(ち)が金持ちなのは分かったよ、じゃあな富裕層」

「待って!」


 バタンとドアが閉められて、サイレントスーツを来たユイしかいない部屋で鈴音はソファに座って涙ぐむ。


「皆人ぉ、皆人と二人っきりになっても、何話せばいいかわからないよぉ」


 その姿を、壁際から見るユイはしばらく眺め続けて、額に浮かぶ青筋が三本浮かぶ。




「あー、今日も疲れたなー」


 自室で普段着に着替えると肩をグリグリ回す皆人。

 すると目の前の空間に突然ユイが現れる。


「相変わらず凄いスーツだなぁ、子供サイズじゃなけりゃ俺もソレ着て女風呂覗きたいぜまったく」


 などと軽口を叩く皆人へユイがチョイチョイと指で呼び付ける。


「ん? なんだ? どうした?」


 素直に近づくとユイが無表情無感動に告げる。


「おじい様、少しかがんでいただけますか?」

「? 別にいいぞ」

「ありがとうございます、ではそのまま目を閉じてアゴをしゃくれさせて笑ってください」

「おいおいなんの遊びだよ、それより俺の周りについては分かったか?」

「ええ、よく分かりましたよ、おじい様の」


 ぱあん!


「外道っぷりが」


 鋭い平手がアゴの付け根を叩く。


 凄く痛い、超痛い。


 声も上げられず畳の上でのたうちまわる皆人を見下してユイが一言。


「この童貞神(DTS)が」


 信じられないくらい低い声に痛むアゴが震えた。




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