第4話 草野球が少年漫画過ぎる
武美と鈴音の眉間にシワが寄る。
そうして、試合が始まればそこは地獄の再現。
衝撃波をまき散らしながら空間を貫く剛速球に大地を削り走るランナー、益荒男達の血と怒号が飛び交う嵐の中で打席は皆人に周って来て、
ズドバシコーン!!!
バットを振る事もできず棒立ちの皆人の前を大砲が突き抜け、受け止めた小山のようなキャッチャーから振動が伝わってくる。
もうこいつら人間じゃない、それが皆人の結論だ。
そして軽く三振を取られた皆人の分を挽回しようと武美がホームランを連発、防御ではピッチャーを務めて、武美が投げる瞬間に広がるインパクトで皆人の心臓が悲鳴を上げる。
それでも皆人というハンデのせいで白玉商店街は三点リードされたまま七回の表を迎えて商店街のオヤジ達が男泣きをする。
「くそ! 文房具屋の爆導(ばくどう)獅子之助(ししのすけ)がいれば!!」
「でもあいつは昨日六トントラック二台にサンドイッチにされて左腕を骨折しちまったじゃねえか! 復帰は無理だ!」
「(それ即死じゃないの?)」
しかしこの世紀末救世主伝説にノーメイクで出れそうなオヤジ達を見る限り、信じられるから本当にトンデモない連中である。
「馬鹿野郎!!」
その時、武美の鉄拳が鯨波と剣之を河の向こう側までぶっ飛ばした。
血を吐いて放物線を描きながら宙を舞う魚屋と金物屋へ武美は叫ぶ。
「いない奴の事を言ってどうなる!? あたしらにできるのは勝利を信じて家で骨を治そうと牛乳を飲む獅子之助の魂を受け継ぎ敵に勝利する事のみ!!」
「で、でもお譲!」
「ええいしつこいぞ!」
「ぐああああああ!!」
背後からの叫びに振り向くとどうやらデッドボールらしい。
わき腹にボールがめり込んだ地獄谷が滝のように血を吐いている。
『じ、地獄谷ぃいいいいい!!』
皆の叫びに白目を剥きかけてた八百屋のオヤジが目を覚まし、自身にめり込んだボールが地面に落ちるまえに拾い上げる。
この間、実に〇,五秒。
「……おい天業院」
血を流しながら地獄谷は振りかぶり、そして、
「これが、白玉商店街だぁああああああああああああああ!!」
投げた。
バッターがボールを投げ、場外、河の向こうまで飛んでいく。
『ホームランだぁーーー!』
湧きあがる仲間達。
ルール上いいのかと心の中でツッコム皆人、しかし大和魂溢れる益荒男達は誰一人として触れず、敵の黒玉商店街の選手ですら何も言わずにただ驚いている。
だが八百屋のオヤジ地獄谷はそこまでだった。
一際大きく血を吐き出して倒れる。
駆けつける仲間と何か喋っているが皆人はもう聞きたくない、昭和の熱血漫画ごっこは勝手にやってろのスタンスだ。
しかしこれで白玉商店街はメンバーが足りなくなったわけで、試合はコールド負けかと思ったその時、
「待て!」
「ぬう! き、貴様は!?」
『し、獅子之助!!!』
左腕にギプスをはめた巨漢が丘の道路から降り立ち、動く右腕一本でバットを拾った。
「ま、待て獅子之助! お前は左腕を」
「言うな鬼瓦、確かに俺の左腕はまだ治りかけだ」
「(いや、骨折は一晩じゃ治りかけもしません)」
「だが、俺の左腕の代わりは……」
倒れる地獄谷を見て、
「あいつの魂だ」
そのまま獅子之助はバッターボックスに立つと右手一本で構え、相手ピッチャー、天業院邪髑と向き合う。
「いいだろう、貴様がその気ならば息の根を止めてくれるわ!!」
「来い!!」
二人の闘気が突風を巻き起こして河川敷に生える草木がなびく。
そして放たれるペットショップ天業院の魔球、デススパイラル。
三つに増えた球はそれぞれが螺旋を描いて音速で飛んでくるという、さっさとプロへ行けよボールである。
そんなチート球を相手に獅子之助は、
「三つの球なんてしゃらくせえ、球が三つあるなら」
くわ!
「三つとも打てばいいだけだぁあああああああああああああ!!」
天業院の球が河の向こう側へと飛んでいく。
天業院の魔球に、獅子之助の気合と根性とガッツと大和魂とその他色々が勝ったのだ。
その後の試合は友情パワーで武美達白玉商店街チームがホームランを連発した事で試合は白玉商店街の勝利。
皆人はようやくこの益荒男達の戦場か解放されたのだった。
しかし試合終了後、敗者らしく黒玉商店街チームが野球道具や河川敷に散らばった歯や爪、血を片付ける間に、武美がメンバー相手にミーティングを行う。
ちなみにデッドボールで血を吐いた地獄谷は何事もなかったかのように参加している。
「では、今回の試合はなんとか勝てた、これもみんなのおかげだ。
だが! 今回の試合は皆人が三振しなければもっと楽に勝てたはずだ!」
武美の矛先が皆人を捉える。
「え? 俺?」
「そうだ! よって! 皆人は明日土曜日、あたしと!」
ポッと頬を染めて、
「マンツーマンで特訓だ……」
「なんでそうなるんだよ! 俺はそもそも商店街の人間じゃないし!」
だが商店街の世紀末風オヤジ達は満面の笑みで肩をつかんできて、
『お幸せに』
とか言っている。
「なにがどうお幸せなんすか!?」
その様子を見るユイの額に青筋が二本浮かぶ。
「まあまあ、武美ちゃんも皆人君のこと思って言ってくれるんだから」
「だよねえ静葉ちゃーん」
応援としてベンチにいた静葉の一言で態度が一八〇度変わる皆人、そして不機嫌な顔になる武美と鈴音。
皆人の鈍感ぶりは天地を突き抜ける勢いだ。
その時、頭上で車のブレーキ音と一緒に若い女の人の声が聞こえて来る。
「鈴音ー、迎えに来たわよー」
河川敷の上の道路に停まる赤いスポーツカーから降りたのは、サングラスを頭に乗せた派手な服装のお姉さんで、顔立ちは鈴音に似ているが身長は二〇センチばかり高そうだ。
皆人は彼女に見覚えがある。
彼女は鈴音の従姉(いとこ)のお姉さんで、
「鈴美(すずみ)お姉ちゃん♪」
ドリルヘアーを揺らして喜ぶ鈴音に手を振りながら、鈴美は皆人達の姿を確認する。
「全員いるみたいね、じゃあ鈴音の家まで送ってあげるから乗りなさーい」
「はーい♪」
「うし、じゃああんたら店に帰ってな、あたしらは鈴音ん家(ち)に行くから」
『オッス!!』
商店街の益荒男達が軍隊のように立ち去ると、皆人達は土手を登って鈴美の車に乗ろうとするが、そこへ雑魚キャラまるだしの声が割り込む。
「おいてめー、武美だな!」
「今朝は俺達の仲間をよくもやってくれたな!」
「スネークなめんじゃねえぞ!」
「全員血祭りに上げてやるぜ」
「スネーク!?」
パンクヘッドにピアスの男四人に、皆人が素っ頓狂な声を上げる。
スネークと言えばここら一帯では有名な不良グループで恐喝窃盗万引きなんでもござれのほぼ犯罪グループの危険度A。
警察沙汰を何度も起こしてナイフの所持は当然で中には拳銃や火炎瓶すら持つキレた連中までいるらしい。
そんなヤバイ連中を敵に回してしまったのかと皆人は震える。
「ほい」
武美の回し蹴り一発で四人の不良が宙を舞って河に頭から突っ込んで犬神家状態になる。
「じゃあさっさと行こうぜ」
「え? あれいいの!?」
問い詰める皆人を「いいのいいの」とあしらう武美、一人取り残された気分で固まる皆人だが、
「粗大ゴミみたいに立ってないで早く行きましょう、皆人君」
「はぁーい」
にこやかに笑う静葉の一言で車に乗り込む。
サイレントスーツで存在を認知されていないユイは、車の後部ボディに乗りながら皆人を鋭い目で見降ろした。
言い知れぬ殺気に皆人の背筋がブルついた。
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