第32話 クズ男子
つまり戸田は、
大麻の恋心を弄(もてあそ)んだ
「なんでこんな、だって大麻は……お前は昔から優しくてかっこよくて、みんなに慕われてたって……」
「だってそっちのほうが女寄ってくるだろ」
全身の血が沸騰した。
大麻の弁当がだい無しにされた時とは比べ物にならない程の怒りに腕が震える。
「この前はハズレだったけどな、三木っていう奴が俺と付き合いたいっていうからさ、顔と体良かったから犯ったけどあいつアソコあんま良くないんだよなー、なのに一発ヤッただけで彼女ヅラしてマジうぜー」
大麻が丹精込めて作った弁当を道路に放り捨てた、あの女の顔が浮かぶ、それじゃああの子も戸田の犠牲者か、そう思うと、あれほど憎かった女子の為に怒りが湧き上がってくる。
「でも浩二も酷いよなー、なんで魔王があいつの姉ちゃんだって教えてくれなかったんだよ」
「ばーか、そしたら賭けになんねーだろ、今回はあくまであの氷の女王と恐れられる最強番長の大麻が男とデートしにノコノコ現れるかっていうのがキモなんだからよー、まあなんていうの?
小学生の頃から同じ学校であいつが双子だって知ってる俺の知的戦略ってやつ?」
その言葉が、トドメとばかりに俺の中に打ちこまれた。
姉さんのせいで勘違いされてたあいつを誰も助けてくれなかった。
でも、それは双子だって知ってる奴が弁護してやれば済んだはずなんだ、なのにこいつは真実を知っておきながら、弁護するどころかそれを利用して、その誤解のせいで大麻が今までどれだけ悲しんだと思っているんだ。
奥歯が砕けそうなほど歯を噛み締めて、血が出るほど拳を握って、俺は生まれて初めて湧き上がる殺意を抑えるのに精いっぱいだった。
「ああでもバラすのもうちょっと別の場所にすりゃ良かったなー、まさかいきなり走って逃げるなんて思わなかったし」
舌舐めずりをして。
「あいつ尻とオッパイ良過ぎるからな、どうせなら全員で輪姦したかったぜ」
「でも浩二、あいつが強いって嘘なんだろ? じゃあいつでもできんじゃん」
「えっ、やっちゃう? やっちゃいます? ハイ決まりー」
目の前で、堂々と大麻のレイプ計画を話しているのは紛れも無く戸田だ。
大麻はこの一週間こんな奴の為に、包丁で数え切れないほどの切り傷作ってまで料理の練習したっていうのか?
こんな奴の為に家族と離れて一人残ったのか?
こんな奴の事を、小学校の頃から想い続けたのか?
子供の頃からずっと好きで好きでたまらなくて、その人の為に家族と離れて、初対面の男子に料理の練習を手伝ってもらって、学校ズル休みして料理の練習して、その弁当をダメにされても一切弱音を吐かないで、数年間積み重ね続けた恋愛感情をこんな形で踏みにじられて……
泣きながら走る大麻の顔が頭を巡る。
続いて初めて会った時の怖い顔。
頬を赤らめて恥ずかしがる顔。
目を吊り上げて怒った時の顔。
嬉しそうに喜ぶ顔を思い出す。
この一週間、いろんなあいつの顔を見てきて、だけどそれはどれも綺麗で可愛くて、見ていて飽きなくて、すごく大事にしてあげたくて。
特に、料理が上達した時に見せてくれる満面の笑みは、それこそこの世の宝物みたいに素晴らしいモノだった。
あんな顔で笑える子が、一生懸命頑張った挙句になんで泣かなきゃいけないんだ。
「謝れよ」
「はぁ?」
「あいつに謝れって言ってんだよ!」
吐きだされた言葉は生きてきた中で一番感情的だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます