第31話 ゲームマスター


「ふー、今日も俺の一〇〇連コンボは冴え渡っていたな」


 格闘ゲームで三〇人切りをしたところで俺は外の空気に息をついた。

 そろそろ俺も帰って昼飯の準備を、


「勝負しろ春人!」

「逃げんじゃねー!」

「次こそ俺が勝つ!」

「勝ち逃げはゆるさねーぞ!」

「ファック!」

「おめーら弱過ぎるんだよ、もっかいイージーモードからやり直せ」


 ゲームセンターの中から雑魚ゲーマー達がまだ何かぼやいているが、これ以上は無視だ無視。


「さてと、じゃあ家に」


 ビュン


「大麻?」


 目の前を走りぬけていったのは間違いなく大麻だった。

 さっき送りだしたばかりの見慣れた背中がまた遠くなって行く。

 それに今の大麻は、


 泣いていた


「まさか」


 最悪の予感に歯がみして、俺は大麻が走って来た方向であり、俺がさっき送りだした方向に向かって走りだした。


 この先には大麻と戸田がデートする予定の遊園地があるはず。


 神だとか仏だとかは関係なく、誰にというわけでなく俺は願った。

 勘違いであってくれ。

 誤解であってくれ。

 それだけは間違いであってくれ。


 子供の頃から千秋姉の相手で体力には人一倍自信があった俺が息も絶え絶えになる頃、遊園地の入り口が見える前に、目的の人物を見つけた。


 おそらく遊園地から歩いてきたであろうその人物、戸田(とだ)浩二(こうじ)は一〇人近い男子達とゾロゾロ歩いて群れながら、教室で見たのとは違う、下卑た笑顔を浮かべながら仲間と喋っていた。


「そんでこれからどうする?」

「そうっすねー」

「戸田!」


 俺の叫び声に、戸田達が一斉に視線を向ける。

 全員きょとん顔だ。

 無理も無い、あっちからすれば俺は初対面、なんで自分の名前を知っているんだろうと思っているだろう。


「お前、ぜえ はあ 大麻とデートじゃなかったのかよ!?」


 肩で大きく息をしながら問いかける俺に、戸田は噴き出して笑う。


「何お前あいつの知り合い?」

「いいから答えろよ! なんであいつ泣きながら走ってんだよ!? なんでお前こいつらと一緒にいるんだよ!?」


 デートには明らかに不必要な男子達を指差し叫んだ。


 大麻は今日幸せになるはずだったんだ。

 ずっと周りから勘違いされて、ずっと間違ったレッテル貼られて、ずっとずっと一人だったあいつの人生は今日変わるはずだったんだ。


 なのに……


「やれやれ、しょうがねーなー」


 人を小馬鹿にした顔で戸田はポケットに手を入れた。


「賭けだったんだよ」

「賭け?」

「ああ、氷の女王が本当にデートに来るかどうかってな、もちろん賭けは俺の勝ち、しっかしおもしれーもん見れたぜー、こいつらが『ドッキリ大成功』とか言いながら出て来た時の大麻の表情は最高だったな」


 戸田の言っている事に頭がついていけない。


 いや、こいつの、戸田の言っている事を一遍でも理解しようものなら嘔吐してしまいそうだった。


 だけれど、そのあまりにも明快すぎる事実は、どうしようもなく俺に分からせてしまった。


 つまり戸田は、


 大麻の恋心を弄(もてあそ)んだ


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