第29話 いやな女


 知ってるって、もしかしてこいつ。


「あれってさ、あんたの姉ちゃんの間宵(まよい)だろ?」


 やっぱりか。


「じつはあたしあんたらの事知ってるんだよね、てか間宵の事見た事あるし、中学の時から有名だったからさ、夜見かけた時にちょーっと後つけてみたら驚いたよ、大麻の家から同じ顔した奴がもう一人出て来るんだもん」


 顔を邪悪な笑みで歪めて女子は続ける。


「あの時の会話まだ覚えてるよ『間宵お姉ちゃんまたやったの?』『お姉ちゃんのせいであたしまで誤解されるんだから』それで『ごめんな弥生』だっけ?」


 まずい、こいつには大麻のネームバリューが効かない。

 それに、以前教室で見たこいつの行動を考えれば、こいつも戸田の事が好きだって事はわかる。

 いやらしい声で笑い、


「Fクラスに大麻(たいま)がいるって聞いた時に色々調べてさー、あんたらの事も仲間に頼んで色々知ったんだけど、姉ちゃん今アメリカだって?」

「何が言いたいんだよお前は」


 たまらず、俺は進み出て問い詰める。


 こいつの様子を見れば大麻は無実で全部姉ちゃんのせい、それをわざわざ言いに来てるわけではないだろう。


 こいつの目的はきっと、デートの邪魔。


「あんたさ、浩二にまとわりつくのやめてくれない?」

「「なっ!?」」


 俺と大麻は同時に声を上げた。


「家政科の女子ってズルいよねぇ、頭悪くて勉強できなくてそれしかできないくせにモテて、うちの男子達も家政科の女子は家庭的で可愛いとか言っちゃってさ、料理くらいアタシだってできるっつの!」


 その言い分に俺は体が熱くなる。


 確かに、家政科には学力が足りなくて普通科を受験しても合格できそうにないから家政科を受験した生徒もいる。


 でも、中には本当に家庭科が好きな奴。


 保育士とか幼稚園の先生になりたいって夢を叶える為に受験する奴。


 そして、大麻みたいに好きな人と一緒にいる為に受験する奴だっている。


 それを『頭悪い』の一言で片づけられたくない。


「浩二はさ、あたしのなんだよね、それをこいつが」


 大麻を睨みつけて、目の前の女子は舌打ちをした。


 いや、どう考えてもそれは逆恨みっていうか、お前相手にされてないだろ。


「嫉妬してんじゃねーよ」

「オカマは黙れよ! 男のくせに家政科とかバカじゃないの?」


 オカマ言うな!


「家政科は関係ねーだろ、つーかお前脅しのつもりか? かっこ悪りー事してんじゃねーよ、お前も戸田の事が好きなら努力して実力で奪おうとか思わねーのかよ」

「だからこうやって実力行使してんでしょ!」

「そうじゃねーよ、恋の努力しろって言ってんだ! 少なくとも大麻は今週ずっと俺から料理教わって努力して、戸田にうまい弁当食わせてやろうって、頑張ったんだ!

 その努力をお前みたいに努力もしねーでこんな事しかできない奴に消されてたまるかよ!

行こうぜ大麻、こんな奴にかまうことねえ!」


「そうね」


 ここは街中、それに相手は女一人だし武器を持っているわけじゃない、さっさと無視して行くのが吉だ。


 仮にあとで仲間連れてのお礼参りがあっても姉ちゃんに頼めば一〇〇人いたって全員五分で病院送りだ。


「お弁当ねー」


 俺と大麻が女子の横を通り過ぎると、突然そいつは後ろから大麻のバッグをひったくった。

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