第28話 80点
「八〇点!」
「よし!」
日曜日の午前、俺と大麻はキッチンで互いにガッツポーズをした。
俺の家のテーブルには現代の魔王と恐れられる大麻(たいま)弥生(やよい)が作った料理が鎮座して、弁当箱に詰め込まれるのを待っている。
「卵焼きにエビフライ、アスパラ巻きにプチトマト、リンゴのウサギちゃんカットなどなどを用意し、そしてデザートとしてフルーツゼリーをこちらのタッパー詰め込めば弁当の完成だ」
と、俺が箸を持とうとして大麻の手に止められる。
「待って、その、詰めるのもあたしにやらせてくれない?」
「そうだな、それがいい」
大麻の真剣な表情に、俺はそう言うしかなかった。
ついこの前まで包丁も満足に使えなかった女の子が、好きな男の子の為にってだけで、俺に合格点を送らせる料理を作って、今もこうして最後の最後まで自分の手で完成させようとしている。
その姿には感動すら覚える。
一応はOKしたんだし、大麻を泣かせたら戸田はマジで蹴り倒す。
さすがにデート用の服で料理をするわけにはいかないので、今日の大麻はデート用の服を袋に入れて持って来てある。
千秋姉の部屋で着替えて、きっと不器用ながらに勉強したんだろう、薄いメイクもした大麻はバッグにお弁当を詰め込んで準備完了。
俺らはいざ戦場へ出陣するが如く気構えで玄関を出る。
「この一週間、本当に感謝するわ」
「いいよ、俺も慣れてるしな」
「慣れてるんだ」
「二七人の女子に料理教えた実績ナメるなよ、バレンタインデーの前は俺が講師になって女子達にチョコ作り教えたんだからな」
「それであんた自身は一個ももらえないってオチ?」
「いや、親戚中の女と商店街のおばちゃん達と父さんの知り合いで、戸籍上男の女性達からで毎年三ケタのチョコ貰ってる」
「な、なにげに伝説作ってるわね」
大麻の口角がひきつる。
「いやな伝説だけどな、本命チョコなんて一個もねーよ」
そんな笑い話に花を咲かせながら、俺らは街へ向かう、とは言っても別に同伴するわけじゃない、デート場所の遊園地の途中までついていくだけだ。
だけど、俺達の笑いは一人の声にかき消される。
「ちょっといい?」
街にさしかかったところで、突然目の前に立ちはだかったのは俺らと同じ年頃の女子だった。
こいつには見覚えがある。
確か、前に戸田を調査した時に、
「おう、火曜日に戸田を呼んで何か喋ってから腕に抱きついたけど振りほどかれてた女子じゃないか」
「そうなの?」
「アンタはどこ覚えてんのよ!?」
眉間にしわを寄せて吠える女子。
大麻には及ばないけど結構整った顔してんのにだい無しだ。
「そんな事よりさ、ちょーっと小耳に挟んだんだけど、アンタ浩二とデートするんだって?」
「お、俺はBLじゃないぞ!」
「アンタじゃなくて大麻(たいま)に言ってんのよ!」
なーんだ俺じゃないのか。
てっきり俺と浩二がデートするっていう噂が立っているのかと思ってあせっちまったじゃないか。
『女みてー』とかよく言われるから、それが歪んでBLの受けとしてみんなに認知されていたと思った。
それにしてもこの女子、鉄血の女帝相手に随分強気だな。
今日の大麻は期待に胸を膨らませているおかげでいつもの迫力は無いけれど、大麻のネームバリューを考えればもうちょっと弱気になると思うんだけどな。
「魔王だか族潰すのが趣味だか知らないけどさ、あたし知ってるんだよね」
知ってるって、もしかしてこいつ。
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