第21話 魅力的お弁当の心得


 大麻家の広い、立派な台所で俺は叫ぶ。


「魅力的なお弁当の心得その一、見た目!」

「うん」


 俺の言葉に大麻が包丁を握りしめながら頷く。


「まずお弁当には必ず野菜が入っている。

緑色のアスパラガスやブロッコリー、オレンジ色のニンジンなど明るい色の野菜は是非使いたい。

 そしてデザートのリンゴはうさぎちゃんカット!」


「待って、それって子供用じゃない? こう……浩二はそういうの趣味じゃないと思うんだけど」

「甘いな大麻(たいま)、その考えはグラニュー糖の三倍甘いぞ」

「だから大麻(たいま)って」

「まあ聞け、考えても見ろ。今回の真の目的はなんだ? 戸田の舌を満足させる事か? 否、断じて違う」


 一見するととんちんかんな事を言っているようにも思える俺の発言に、当然大麻は反論する。


「違うってなんでよ? あたしはあんたにおいしい料理の作り方を」

「はいそこ! ……なんでおいしい料理作りたいんだ?」


 首を傾げていた大麻はドキッと肩を跳ね上げて頬を染めた。


「そ、それは、浩二においしい料理を食べて貰って、喜んで欲しくて、家政科の女子だから……がっかりさせたくなくて……それに浩二人気あるから他の娘(こ)に取られないようにアピールを」


「ハイ最後の正解!!」

「ふえ!?」


 今こいつ『ふえ』って言った。

 アニメ以外でそんな事言う奴いるんだな。

 まぁそれは置いといてと。


「そう、今回は戸田においしい弁当を食わせるなど立て前! 実際はお前の魅力をアプィールして戸田をお前に惚れさせる事が目的だ!」

「いやでもあたし達はもう付き合って――」

「シャラップ! 大麻三等兵! お前はもう自分が周りからどう見られていたのか忘れたのか!?」

「ど、どうって……あ」


 思い出したらしい。


 大麻は目を大きく開くと、口をぽかんとさせて固まった。


 泉美曰く『氷の女王』で『鉄血の女帝』で『歩く自然災害』、おまけに『現代の魔王』、教室に入ろうとしただけで生徒が神に祈り、お経を唱え、学校を休んだだけでここら一帯の勢力を潰して回っていると思われる。


 大麻は、周囲からそれほどに危険人物のレッテルを貼られているのだ。


「ちなみに今日休んだのは隣町に攻め込んだり首相官邸に乗り込んだり裏社会を牛耳る為に渡米した事になっている」

「きょ、去年よりはマシだわね」


 バカな、これより上があるというか!?


「去年なんて言われたんだよ」


 二度、三度と喋ろうとして口ごもってから、小さく、


「あ、あたしは連続殺人犯で、家に殺した人の生首飾ってて警察が捕まえないのは、あたしが警察署長の子を人質にしてるからだって」


 腹が冷えた。


 上手く言えないが、それを聞いて俺はとにかく凄く嫌な気分になった。

 さっきまでの『大麻三等兵!』なんて言っていた時のギャグテンションがどこかに消えてしまう。


 魔王や女帝っていうニックネームや、首相官邸に乗り込むとか、それは考え方によってはジョークに取れなくもないし、良識ある人間ならデマだと思うだろう。


 だけど、超えてはいけない一線って奴があると思う。


 人を殺したとか、人の子を人質にしてるとか、それは確証無しに、いや、確証があっても言ってはいけない事だ。


 俺も昔は色々と言われた。

 家事に詳しいせいで、


『本当は女なんじゃないか』

 とか、

『将来はいいお嫁さんになれるな』

 とか、

『男のくせに気持ち悪い』


 とか言われるのは嫌だったけど、それはその場だけの感情で済んだし、言ってくる連中に深い恨みを抱いたりはしなかった。


 けど、中学一年生の時、俺は参観日に来た姉さんがいつも通り俺にじゃれついてきた事で、一部の男子から言われた。


 春人は毎晩姉を犯している。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る