第18話 お相手は?



 昼休み、俺はB組の教室へ来ていた。


 理由は明快。


 現代の大魔王こと大麻(おおあさ)弥生(やよい)が包丁に左手を料理されてまで手料理を食べさせたいというその呪われた悲劇の……じゃなくてあんなにも可愛らしい美少女に愛されている幸せ者を拝みに来たのだ。


 まあ本人はただ脅されてるだけで付き合ってる気ないかもだけど、うん。

 ちなみに今日の大麻はズル休みして家で一人料理の個人練習をしている。

 高校生活でのっけから出席日数がだだ下がりだが、まあそうでもしないと間に合わないしな。


 昨日やっと登校したのにまた休んだせいでみんなは、


『今度は隣の町を侵略しに行ったんだ』

『いや、首相官邸に乗り込む準備をしているに違いない』

『違う、アメリカの裏社会を牛耳る為に渡米したんだ』


 などと言われている。


 アメリカに行ったのはお姉さんのほうですよ。


 などという些細な事は置いといて、俺は教室のドアからこっそりB組を覗く。


「おーい、戸田ー」


 超タイミングいいな。


 ちょうど窓際に立つイケメンに向かって坊主頭が一人駆け寄る。


 なるほど、あのイケメンが戸田か。


 髪はミディアムでロン毛というわけではないが、かといって短髪でもない。


 それでいて親しみのある笑顔で坊主頭のほうを見る。


「どうした山田」

「ちょっと宿題見せてくれよ」

「机にノート入ってるから勝手に見ていいぞ」

「サンキュー」


 なんて爽やかな奴だ。

 そして優しい。


 サラサラの髪に雑誌モデルでもやれそうなルックス。

 身長も結構あってスポーツマンのような頼りがいすら感じる。


 中学の時に三年連続女装コンテストで優勝した俺じゃあいつみたいな魅力は一生出せないだろう。


 言ってしまえば、戸田は完璧だった。


 見た目は今更だが窓際によりかかる戸田の周りには男女問わず多くの生徒達が囲んでいて、


楽しげに、

爽やかに、

穏やかに、


明るい口調で皆と笑い合っていた。


男子にも女子にも人気のある美形男子、それが戸田への評価だ。


確かにあれなら大麻じゃなくても好きになってしまうだろう。


頭の中で、戸田と大麻がデートしている姿を想像してしまう。


二人とも背が高くて綺麗な顔立ちで、どう考えてもお似合いだった。


美男美女のカップル。


二人が並べば誰もがうらやむベストカップルの誕生だ。


 それに、大麻は姉ちゃんのせいで誤解されているだけで実際はあんなにも可愛い普通の女の子だ。


 しっかりとお付き合いをして、戸田にも大麻の魅力を解ってもらい、その事が周囲に伝われば大麻の高校生活は素晴らしいモノになるだろう。


 戸田と付き合えば、もしかしたら周りからの評価も変わるかもしれない。


 そう考えて、俺は二人が上手くいくように祈ってしまう。


 大麻とは昨日会ったばかりだし、戸田は口もきいた事が無いけれど、それでも、やっぱり恋愛事は上手くいってほしい。


 確かに俺はどこかの誰かさんのせいで、年齢イコール彼女いない歴だけど、だからと言って『リア充爆死しろ』とか『カップルなんてみんな死んでしまえ』とか言えるほど酷い人間にはなれない。


 どう考えても、世の中に一組でも多くの幸せなカップルが増えた方がいいに決まっている。


 つうわけで今日も放課後はあいつの料理指導といくか。


 だけど、俺が自分の教室に引き返そうと思ったところで、不意に一人の女子生徒が戸田を呼んだ。


 髪を肩で切りそろえた、割と顔の整った女子だ。


 スタイルも、この学校の中じゃかなりいいほうだろう。


 昨日散々大麻と一緒にいたせいで今の俺の琴線は少しも触れないけれど、他の男子ならすれ違った瞬間に振り返るだろう。


 グループから離れて、戸田はその女子のもとへ歩みよるが、二人は少し話をして、急に女子が戸田の腕に抱きついて、だけど戸田はすぐに彼女を引き離してまたグループへと戻ってしまう。


 おお、どうやら戸田はチャラ男というわけでもなさそうだ。


 きっとあの女子が俺にまとわりつく泉美のように戸田にまとわりつき、それを戸田がけんもほろろに切り捨てたに違いない。


 容姿も性格も人望も、いや、宿題を見せてくれと頼まれるあたり勉強も決して悪く無いないはずだ。


 ここまで完璧な男がかつていただろうか。


 戸田の背中を、殺意すら感じる表情で睨みつけるフラれた女子が怖いけど。戸田は気にも留めていないようだ。


 大麻、お前の選択は間違ってないぞ。


 俺は思わずガッツポーズをした。

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