第14話 15点


「一五点」

「なぁっ! や、やっぱダメなの?」


 辛辣な評価に大麻の顔がひきつる。


「駄目っていうかまず雑なのと不器用過ぎるぞ、包丁、混ぜ、分量計算、最低限これだけはできないとな」


 俺が大きさがバラバラな野菜、鍋の周りに飛び散ったルー、必要以上に減った油のボトルに視線を注ぐと大麻は無言でうなだれた。


「まあカレー粉のおかげで味は普通のカレーだけど、作業工程考えるとお弁当を作る時になー」


 大麻はさらに落ち込んでいつもの迫力など微塵も感じない、この姿をクラスの連中にも見せてやりたいもんだ。


「ほら、とりあえずカレーはできたから、濡れた絆創膏取りかえるぞ」

「あっ、うん……」


 八枚もの絆創膏をゆっくりと剥がしてから水道のお湯をかけ、キレイなタオルで左手を包んでからやってから俺に腕を引かれると抵抗しないで大麻はついてくる。


 あらかじめ絆創膏はいくつか台所に常備しているがもう使いきってしまった為、リビングまで行って救急箱を取る必要がある。


 しかし……


 俺に手を引かれながら従順についてくる大麻には少しドキドキしてしまう。


 なんだろう、こうして見ると大麻は本当に普通の女の子、いや、むしろそこらの女子よりも女の子らしいと思う。


 事実、好きな男の子の為に手を傷だらけにしながら料理してるわけだし。


 大麻をリビングのソファに座らせると、俺はテーブルの上に救急箱を広げて、本格的な手当ての準備を始めた。


 料理中は水仕事だし後でまたこうして貼り直す事になるので水で洗って絆創膏を貼るだけだったが、今度は傷薬も使って一枚一枚ていねいに貼ろう。


 俺は差し出される左手に薬を塗ろうとして、だがその様子に手が止まった。


 大麻の手は、驚くほど綺麗だった。


 切るごとに絆創膏を貼った時には気付かなかったが、全ての絆創膏を剥がして白い肌を晒す手は本当に細くて、形が整っていて、なのにその白くきめ細かい肌に何本もの痛々しい切り傷が刻まれ、赤い口が薄く開いている。


 こんなにも綺麗な手をこんな無残な姿にして、だけど大麻は一度も弱音を吐くことは無かった。


 それどころか俺が絆創膏を貼ろうとすると『そんなのいいから早く料理を』なんて言い出す始末だった。


 まあ、調理者の血が混ざった料理なんてNGだと言い含めてささっと貼ったが、その手がいかに戸田の事を愛しているかを物語っていた。


 そんな傷だらけの、今にも壊れそうな手をこれ以上苦しめまいと、俺は可能な限りの慈愛を以って優しく薬を塗ってから、絆創膏のほうにも薄く薬を塗って、指を締め付けない程度の絶妙な力加減で巻いていく。


「本当に、大麻(たいま)のこんな姿見たらみんな驚くだろうな」

「大麻(たいま)って言うな!」


 女帝再び。

 だが俺に握られた左手を気にしてから右の拳を震わせたが振り上げた拳はゆっくりと下ろされる。


 そんな様子に、最初は怖かった目も、今はただ可愛くしか見えない。


 一言でいえば『可愛く怒る』というやつだ。


 そうなると泉美の言っていた事がどうしても気になって俺は問いかける。






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