第13話 女子番長の料理スキル

「つうわけでこれからカレーを作るぞ」

「お、お願いします」


 慣れない様子で頭を小さく下げる大麻、氷の女王がずいぶん可愛いもんだ。


「まず大麻(たいま)の料理の腕がどんなもんか確認する」

「『たいま』って言うな!」


 平手が頬を襲う、だって『おおあさ』って読めないんだもん。


「カレーは基本的にはカレー粉の裏に書いてる通りにすれば作れるから、これができれば最低限の腕前はあることになる」


 俺は頬を抑えながら涙ぐむ。


「逆にできないと?」

「絶望的だな、ちなみに千秋姉と加奈子は作れない」

「…………」


 俺が知る中で、カレー粉で作るカレーはおろか、レトルトのカレーも作れない人類はあの二人だけだ。


 具体的に言うとレトルトパックをお湯に投入するまえにパックを破壊する。




 こうして俺らはカレーを作り始めるがカレーなんて本当に簡単なものだ。


 まずは野菜を切って、それから肉を切る。

 生の肉を先にまな板で切ると肉の菌がついたまな板の上で野菜を切ることになるし生肉に触った手で調理器具に触るのもよろしくない。


 確率は低いが実際に生肉に触った手や生肉を切ったまな板の上で切った野菜が原因で食中毒になった事件がある。


 続いて鍋の底に薄く油を敷いてから切った野菜を鍋の底で炒める。

 しばらくしたら適量の水を入れて混ぜながら良く煮込む。

 指定の時間になったら今度はカレー粉を入れてやはりまたしばらく煮込む。


 俺はカレーをバカでも作れる料理だと思っているのだが世の中にはカレーを作れない人がマジでいるから困りものだ。


 つまり千秋姉と加奈子は激バカ。


 結果、大麻はちょいバカである事が分かった。


 材料の切り方は雑で力任せ、千秋姉のように拳で砕いたり、加奈子のように振りおろしたりはしないが、玉ねぎもニンジンも全部上下運動だけで無理矢理切断して包丁をスライドさせるという事がない。


 しかも切った野菜の大きさはバラバラだ。


 当然に肉が切れるはずもなく、さんざん包丁の刃を肉に押し付けて、歯を食いしばりながらとうとうノコギリのようにギコギコと包丁を動かして千切るようにして肉を切断する始末だ。


 ちなみにこれだけの作業で左手を八回も切った。


 そのたびに俺が絆創膏を貼ってやる。


 料理をしているというより、食材に料理されている気がする。


 鍋の底に油を敷く時は、揚げモノをするかのように油を大量にブチ込む千秋姉と加奈子よりはマシだが適量の倍は入れてしまった。


 おまけに炒める時も、煮込む時も、とにかく混ぜるという行為がぎこちない。


 ガクンガクンと腕を動かして具が時々鍋から飛び出すありさまだが、鍋を倒す千秋姉や加奈子よりは良いだろう。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る