第11話 戦闘力53万の姉

 てなわけだ。

 しっかし現代の魔王、鉄血の女帝がこんなにウブなんて、学校のみんなが知ったら驚くだろうな。


「ただいまー」

「おかえり春人ー!」


 靴を脱いで上がるなり廊下の奥から特攻してくる超危険生命体新川(しんかわ)千秋(ちあき)二三歳、戦闘力五三万の化物である。


「四八の貞操守護術! マトリクスブリッジ!」

「むむっ、お姉ちゃんの四八の貞操強奪術、ビーストタックルをかわすとは流石ね、だけど!」


 千秋姉は早口にまくしたてながら俺の上を通過すると大麻の横をかすめながら空中で体勢を変えてドアを使った三角跳びで再度俺に襲い掛かる。


 四八の貞操強奪術の一つ、三次元跳躍だ。


 なんどタックルをかわそうが周囲に遮蔽物があるかぎりこの技で千秋姉は何度でも俺に喰らいついてくる。


 俺よりデカイくせに身軽な人だ。さすがは女子プロレスチャンプ。

 ならばここは、


「四八の貞操守護術! 水上げ突き!」


 説明しよう、これは千秋姉の両ワキに手刀を鋭く抉り込ませる事で肺にショックを与え、一時的に呼吸停止に追い込むのだ。


 口をぱくぱくさせながら呼吸の停止した人間はまるで水上げされた魚のようになってしまうのだ。


「遅い! 四八の貞操強奪術! 瞬間脱衣!」


 早い話がルパンダイブである。

 千秋姉は人間がまばたきをするより速く短パンとキャミソールと一緒に下着まで脱ぎ去り、全裸になって俺に襲い掛かるが、


「四八の貞操守護術! 瞬間着衣!」


 脱いだ服が床に落ちる前に俺はその全てを千秋姉に着せ直した。

 おかげで水上げ突きは失敗に終わったが、姉の体に欲情する前に服を着せるのには成功した。

 ていうかこいつブラしてねえ。


「腕を上げたわね、だけどここで引き下がるお姉ちゃんじゃ、ってその子は?」


 やっと気付いたかメスゴジラ。

 腰まで伸びたサラサラのロングヘアーを揺らしながら、千秋姉は大麻に近づき見下ろすと、


「やぁん可愛い♪」


 魔王もゴジラの前じゃ可愛いですか。

 つうか千秋姉に見降ろされる大麻は目を見開いてパクパクと動く口からは何も出ないようだ。


 驚いている。

 あれほどの威圧感を持っていたはずの大麻は千秋姉の存在に完全に圧倒されていた。


「この子あたしへのお土産?」

「ちげーよ、クラスメイトだよ」

「まさか彼女!? そんな、もう春人との婚姻届まで用意しているのに! これは立派な浮気よ!」

「書いた覚えねーよ!」

「えーっとね、去年の秋に春人にいーっぱい、いーっぱいお酒飲ませてね、判断能力のなくなった隙にササッと」

「ササッとじゃなええよ、書かせるなよ! そして飲ませるなよ! だいいち姉弟間での結婚はできねーよ」

「大丈夫、家の中は治外法権よ」

「妄想もたいがいにしろ!」

「それに知ってる? 日本では姉弟の婚姻は認めてないんだけど肉体関係の規制はないんだよ♪」

「誰か一一〇番してくれぇー!」

「あはは、春人可愛い♪ そうだよね、春人に彼女なんてできるわけないよね、どうせまた料理教えてって子でしょ?

 お姉ちゃん部屋にいるから晩御飯できたら教えてねー♪」


 それだけ言い残してリングネーム、怪獣女王クイーンゴジラはずしんずしんと去っていく。


「ったく、千秋姉は……いきなり悪かったな、っていつまで呆けてんだよ?」


 すると、無言のままに自分の胸をムギュっとわしづかみ、持ち上げた。


「ちょ、おま何やってんだよ!」


 健全な男子の前でそんなことされたら色々とアレしちゃうだろ!

 だけど大麻は俺の言葉が耳に入ってないようで、自分の胸と遠ざかる千秋姉の背中を何度も見比べてから一言、


「初めて負けた……」


 ああ、胸のサイズか……


「ねえ、ところであんたのお姉さんてウエストどのくらい?」


 姉さんのウエスト?

 二三の大人の女性と自分を比べても意味がないと思いながら、俺は大麻に耳打ちをしてやる。


「うそ!?」


 と叫んで大麻は自分のお腹に手を当て、しょんぼりとうなだれた。


「いや、姉さんと比べられたらAV女優だって勝てないから、そんな落ち込むなよ」


 こくん、とうなずく大麻がかわいい、戸田は幸せ者だなぁ。


 じゃあ気を取り直してキッチンへ。


 そう一歩を踏み出すと第二の家族襲来。


「あれぇ、春ちゃんその子おともだちぃ?」


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