第10話 可愛すぎる女子番長が俺の家に来ます
「ここが俺の家だ。まあ上がってくれ」
「お、お邪魔します」
夕暮れ時、俺は大麻と一緒に帰宅した。
何でこんな事に、それは時をさかのぼる事数十分前……
「実はあたし、B組の戸田(とだ)浩二(こうじ)って男子の事が好きで……」
ひとしきり俺をボコってから、大麻はそう説明した。
「へぇ、それでそいつのどこが好みなんだ?」
俺の問いに大麻は耳から煙を出してうつむく、
「えと、その、ぜんぶ……」
なんだろうこの可愛い子。
好きな理由を聞かれて『全部』って、ほんとにおいおいだよ。
「べ、別にそんな事はいいでしょ! そんな事よりも浩二の為にもあたしは料理上手くなりたいのよ」
必死なあたりがまた可愛いな。
顔は童顔でなく、可愛い系じゃなくて美人系で、クラスの女子達には無い大人の魅力があるのに、恋についてはこんなにも初々しいのか。
ギャップ萌えだ。
ギャップ萌え過ぎる。
これでA級喧嘩師じゃなかったら惚れてるぞ。
「そうだなー、告白するにもまず女子力上げないとなー」
「いや、もう告白はした」
「はい?」
これはあれだろ?
時々学園マンガである主人公がヒロインの恋の手伝いをするというあの、
「戸田を自分に振り向かせるために料理の勉強するんじゃないのか?」
「もう告白済みよ」
なんという行動力。
好きになった理由聞かれただけで耳から煙出すような初々しい娘が自力で告白完了とか信じられん。
さすがに現代女子は肉食化が進んでますなあ。
「それでフラれたから振り向かせて、もう一度告白しようと」
「あんた人の話聞いてんの!?」
「ひぃ!?」
魔王が牙を剥く。
俺としたことが思わず口が滑っちまった。
今にも殺しにかかりそうな迫力に顔がひきつって、対する大麻はまた、しおらしい表情になって視線を逸らす。
「こ、浩二は……OKしてくれたもん」
うわぁ、やっぱ可愛い。
……ってOKしたの!?
なんか展開変だろ。
普通ここは好きな男子を振り向かせるために一生懸命料理を勉強する女子の手伝いを俺がするっていうあれじゃないのか?
なのにもう告白済みで付き合い済みで彼氏彼女の関係なのでございますか?
「それで今週の日曜日初デートする事になったから、その……お弁当とか作って……」
「いや、もう付き合ってるなら別にそこまで必死にならなくてもいんじゃね? だって向こうだってOKしたって事は今のお前の事が好きって事だろ?」
ただ大麻が怖くてOKした可能性もあるけどな。
「今週の日曜日なんて急がなくても――」
「ダメよ!」
グッと拳を作って詰め寄ってくる。
「これでもあたし家政科なんだから、戸田……じゃなくて浩二だって……」
もごもごと言い淀んで、大麻はうつむく。
てうか戸田のこと下の名前で呼ぶのに慣れてないんだな、なんか可愛い。
「言われたのよ」
はい?
「なんて?」
「だ、だから!」
顔を真っ赤にして大麻は叫ぶ。
「『家政科に入るなんて、大麻さんて家庭的なんだね』って! 浩二にそう言われちゃったのよ!」
ああ、なるほど……つまり……
「浩二とは同じ中学で、同じ高校に入りたくて……でも、あ、あたしバカで勉強できなくて、それでも浩二と同じ高校に入りたくて!」
いつもの威厳はどこへやら、大麻はしどもどろに続ける。
「だ、だからここの家政科ならなんとかって、それで受験しただけであたし家事なんて全然できないのに、だから初デートの遊園地でびしっとしたお弁当持ってって……あた、あたしだって、自分が周りからどう思われてるかは知ってるけど、けどやっぱり浩二を失望させたくないし、うぅ……変かな?」
変じゃないけど、その戸田って奴もよくOKしたな、もしかして付き合っていると思っているのは大麻だけなんじゃ。
俺の頭の中では大麻の告白を脅迫と勘違いして怯えながら首を縦に振る戸田の姿が浮かんだ。
ただし戸田の顔は知らないのでイメージの中の戸田が、顔が『戸田』という漢字で隠れている全身タイツマンなのはご愛嬌だ。
いや、服はうちの学校指定のだろうから着せておこう。
まあそれは置いといて。
「別に変じゃねーよ、好きな男子に上手い弁当食わせてやりたいって気持ちは分かったよ、じゃあこれから俺ん家(ち)これるか?」
「いいの?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます