第9話 オーマイガットナンマイダーブ

 新川春人 享年一五歳(童貞)

家族や幼馴染に振り回されオカマに貞操を狙われながら魔王に無実の罪で殺される。


 お願い神様、これだけ不幸なんだから死んだら天国行きにしてください……


「新川だっけ? アンタさあ」


 来たぁあああああ!

 オーマイガットナンマイダーブ!


 一迅の風で大麻の髪が揺れ、大きな瞳が見つめてくる。


 ジッと、ジィっと……溜めが長いですよ大麻(たいま)様。


 まるで言い淀むようにして唇をもごもごと動かす姿は小声で呪詛を呟いているようにも見える。


 そこまでか、それほどまでに俺が憎いか殺したいか、ああやっぱり千秋姉を読んでればよかった。ヘルプミーマイシスター。


 そして、よりいっそう大麻の眼光に魔力が込められ、俺は絶命の予感に身をこわばらせて、


「アタシに料理教えなさいよ」

「すいませんでしたぁあああああああああ!!」


 俺は土下座で何度も額をコンクリートの床に叩きつける。


「やっぱりまだ死にたくありません! 俺の何が大麻様をお傷つけになられたかは存じあげませんが俺に悪気はないんです!

 何か至らぬ事があれば死力を尽くして直しますので命ばかりはご勘弁を!!」


「え? いや、ちょっと」


 俺はさらに額を床に叩きつけながら両手をこすり合わせて拝み倒した。


「何言ってるのよ、アタシはただ料理を教えて欲しいだけで」


 そうですかリョウリヲオシエテが原因なんですね、すぐに直します光速で直します。だから命は……って、へ?

 今この人なんておっしゃいました?


「あのう、お聞き間違いでなければ今、わたくしめに『料理を教えて』と……ぉッ!?」


 問いながら顔を上げると見てしまった。見えてしまった。


 他校のソレよりも丈の短い制服のスカート。

 大麻が俺の目の前まで近付いていた事。

 俺が床に頭をこすりつける超低姿勢土下座のまま顔を上げた事。

 三つの偶然が起こした奇跡で、俺の目には細かな刺繍が確認できるほどはっきりと純白の下着が映っていた。


 身内以外の女とエロハプニングが起こって欲しかったとは願ったが、この相手にこのタイミングって神様はどれだけ俺の事が嫌いなんだ。


 ぬぉおお!


 女物の下着なんて家で母さんと千秋姉の見慣れてるし触り慣れてるのに、どんだけ大麻が美人でも恐怖で見惚れる余裕も無かったのに。


 なんで俺は今興奮してんだバカ野郎!

 顔に出たら気付かれるだろ!


「そうよ、アタシはアンタに料理を……ん?」


 き、気付かれた。

 オワタ。

 あぼん。

 チーン

 俺の人生シャットダウンまで残り数秒。

カウントダウンが今始ま、



「イヤッ! 見ないでぇ!」



 顔を耳まで真っ赤にして、大麻はぺたんと屋上の床にお尻をつけると両手でスカートを抑えた。


 な、なにこの反応?


 ここは無言のままに俺の頭を踏み潰してスイカの汁が屋上を赤く染め上げるシーンじゃなかったのか?


 大麻が両手をフトモモの間に置いてスカートを抑えるもんだから、両腕が胸を左右から挟み込んで、豊満なおっぱいがことさら強調される。


 さらに目に涙を溜めながら、

「うぅ……み、見た、よね?」

 と上目づかいに聞いてくる。


 ズッッギュゥウウウウウウウウウウウウウン!!!

 ぎゃああああああああああああああああああ!!!


 何この子!

 何この娘! 

 何このガール!

 今のは世界の全男子が総勃ちだ!

 こいつ誰!?

 大麻(たいま)はいったいどこに隠れた!?


 こんな可愛くて弱々しいいたいけな美少女といつすり替わったんだ!?


「大丈夫ですかお譲さん、立てますか? まったく、大麻(たいま)はどこに行ったんだ」


 とにかく彼女を保護しなければ、そんな使命感に駆られた俺は立ち上がると目の前の名も知らぬ美少女に手を差し伸べて、


「あたしは」


 美少女の目じりがみるみる釣り上がり、拳を震わせて、


「大麻(たいま)じゃなくって大麻(おおあさ)だぁあああああああああ!!」


 大麻(たいま)ならぬ、大麻(おおあさ)のアッパーカットで俺の視界が空を舞う。

 ああ空が赤い。

 カラスが黒い。


 そして『たいま』とすり替わったのは『おおあさ』さんか……ってそんわけねーよ、この迫力、威圧感、まぎれもなくこいつはあの現代の魔王大麻(たいま)弥生(やよい)。


 スローモーションになる世界の中で、先程の変貌ぶりはなんだったのだろうかと考えながら俺は頭からコンクリに落下。


 幼い頃から千秋姉から逃げるべく二階や三階から飛び降りていなければきっと首の骨が折れてお寺行きだったことだろう。


 それでも、俺がぴくぴくっと手足を痙攣させると、大麻は慌てて駆け寄り。


「だ、大丈夫!?」


 と仰向けに倒れる俺を見下ろして、また赤面してスカートを抑えた。

 ああ、俺は夢を見ているのだろうか……

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